いつか君に届け
晴れ着
『おにーさん!ねえ!おにーさん!』

『あー。なに?』

『誰かのお迎え?そんな高級車校門の前に横づけしちゃって邪魔なんだけどー!なーんてねー冗談だよ!かっこいいね!』

『あー悪い。君はここの生徒か?頑張れよ』

『もうすでに頑張ったんだよー!エリート進学校だぞ!おにーさんさーどう見たってホストだよね?やっぱ儲かんの?』

『いやそんな事はないよ。体張ってるわりにはたいした事はないし割りに合わないぞ。エリートの坊っちゃんがそんな世界に興味持たない方がいい。じゃあな』

『拓海!なにしてるの?さっきの人は知り合い?最近勉強もしてないんじゃないの?』

『あー全然知らねー!でもホストはありだよな。俺ってモテるしー!海斗!カラオケ行かね?あっ!海斗は塾だよなー。俺適当に遊んでから帰るよ!じゃあな!海斗!また明日!』

『ちょっと!拓海!いったいどうしたの?最近変だよ!拓海!僕達魁聖の生徒なんだよ。ここに合格するのに僕達はどれだけ努力してきたと思ってるの。もう4月から高等部なんだしみんな次は大学受験に向けてスタート切ってるんだよ。遊んでる暇なんて僕達にはないんじゃないの?』

『そうだねー海斗の言う事は間違ってない!正論だ!でも俺はもう頑張ってきたし頑張る意味がわからないんだよ!海斗は頑張ればいいじゃん!俺はホストにでもなろっかなー!さっきのおにーさんかっこよかったしー!じゃあ!海斗!俺行くとこあるから!またな!』

壮ちゃん!二十歳になった俺は勘違いをした努力で合格を得て通った魁聖中学を眺めてきました。7年前俺がちょっとだけ通った中学です。学校も制服も全然変わってませんでした。俺がここに合格をした事が全ての失敗の始まりのように思ってきた。だけどどうなんだろう。合格していなくても俺は結局同じだったかも知れないね。ここに合格しなければお母さんは生きていたかも知れない。でも俺がここに合格してお母さんが自殺をしたから壮ちゃんと再会出来たし俺を引き取ってくれて一緒に生活する事が出来た。なんだか複雑です。どちらの道を歩んでいても俺は結局大切な人を失う運命であった事に違いはないんでしょ。ただ今は仕事を頑張るだけです。何の為に俺は頑張るんだろう。魁聖中学に合格する為に頑張ってきた意味がなかったようにそして今も体を酷使して仕事を頑張る意味が見いだせないよ。また無意味なだけなんじゃないの?大学受験だって頑張った意味なんかあったのかわからないし俺は無意味な事しかやってないんじゃないの?わからないよ壮ちゃん!今日はとても寒いです。節分であり暦では明日から立春なんだけどね。この時期は体も心も俺は凍ってしまう。弱音です。すいません。

『もしもし?大輔?お疲れ!どうしたの?』

『もしもし?慶太郎?お疲れ!お前どこ?』

『えっとー今は現場の事務所に向かって走らせてるよ。なに?店になんかあった?』

『いや今月はバレンタインだからお前現場が忙しいとは言えど絶対に時間作れよ。稼ぎ時だからな!お前の客だってまだ通ってくれてるんだ。どうにかしてそっちの仕事片付けろよ!』

『あー。バレンタインですか。忘れてました。そうっすね。今月でしたね。だいたい俺チョコレート大嫌いなんで迷惑でしかないんだけどな!チョコ一緒に食べようとか言われたらマジ泣きそうになるんだけど』

『仕事だ!我慢しろ!高価なプレゼントも持参して来店してくれるんだ。チョコぐらい食ってやれ』

『あのさー俺は高価プレゼントもゴミでしかねーんだよ。そこにチョコを無理やり食わされるなんて拷問でしかないね。俺バレンタインだけはパスしたいんだけど!』

『ふざけた事をのうのうと言ってんじゃねーよ!仕事だっつってんだろ!絶対あけとけよ!お前の事だからまた忘れたとかとぼけたらマジぼこるぞ!じゃあ!お疲れ!』

『わかりましたよ。お疲れ!』

はぁー。俺にとって三大恐怖イベントナンバー2になるのはバレンタインだぞ。ナンバーワンは誕生日イベントだ。ナンバー3はクリスマスかな。チョコレートケーキを持ってこられて一緒に食べようって言われた日には青ざめて顔がひきつってたはずだぞ。空気読めよ女共。だいたい俺は甘い物が好きじゃねーんだよ。壮ちゃん!俺は幼稚園の頃も散々泣いたよね。バレンタインのチョコを渡してくる女の子に俺は意地悪されてるんだと勘違いして壮ちゃんを困らせたんだっけ。俺に女の子の気持ちだけはちゃんと受け取ってあげなさいって一口だけ俺に食べるよう言ったよね。泣き喚く俺にこれは意地悪じゃなくて慶太郎の事が好きって言う女の子の大切な気持ちなんだから慶太郎がどんな気持ちであろうと気持ちだけはちゃんと受け取ってあげる事が優しさと言うんだって無理やり食わせた。泣く俺を見て残りのチョコは全て壮ちゃんが食べてくれたね。俺は今でもチョコは嫌いです。でも壮ちゃんがせっかく貰った物を捨てたらダメだって言っていたからホストになった俺は吐き気がする程大量のチョコレートを俺が通っていた幼稚園に持って行っています。園長が先生や園児に配ってくれてるよ。今は受け取ってるだけマシになったでしょ?それに捨ててないし。小学校と中学校の時はコンビニのゴミ箱に捨てていた。ごめんなさい。幼稚園の頃はお仕置きされるから嫌々受け取っていたけどいざチョコを目の前にすると泣いたけどね。小学校の時は壮ちゃんにお仕置きされる恐怖はなかったし中学はもっと最低で俺は受け取りもしなかった。投げつけて返すような奴だったよ。見てた?絶対壮ちゃんは怒るなってあとになって思ったけどもう遅いね。女の子を泣かすなんて最低だって壮ちゃんはよく言っていたよね。こんなクズに渡す女の子もどうかと思うけどな。また反省してないって怒る?俺はまだちゃんと反省が出来ないよ。してるつもりなんだけどな。自問自答を繰り返す事をやってはいるんだよ。辛くなる。これが反省するって事?わかんないよ。俺が死なせてしまったあの娘も今年成人式で晴れ着を着ていたはずなのにね。俺は参加する資格がないと思っていたから成人式には出ませんでした。涙の成人式を大輔と2人で壮ちゃんの前でやったしね。仕事に行く途中成人式の日に晴れ着を着た女の子達を見て俺は苦しくなりました。本当にすいませんでした。俺が許される事がないのはわかっています。あなたの晴れ着をあの場所に置いておきました。受け取ってくれるはずがない事もわかっています。それでも俺はあなたにも晴れ着を贈りたくなったので鮮やかな青い晴れ着をあなたへと選ばせていただきました。俺に晴れ着を着た姿を見せてほしいです。俺がそっちへいけば見せてくれますか?佐藤あかねさん!成人おめでとうございます。
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