いつか君に届け
神秘の蛍
俺は来月に21歳の誕生日を迎えようとしていた。忙しい中でも時間を作り千佳と過ごす時間を大切にしたいと思ってはいるんだけどなんだかお互いが気を遣いこれ以上傷つけ合わないようにすることが精一杯になっていた。壮ちゃん!愛ってなんだろう?俺は壮ちゃんに愛されていて愛を貰ったけど愛の与え方が俺にはわからないよ。どうすれば千佳に愛を与えられるんだろう。親が子供を愛する愛と恋人を愛する愛は違うんでしょ?俺は千佳を幸せにする自信がないです。俺みたいなクズと付き合っていたら千佳は時間の無駄なんじゃないかって思ってしまう。俺は人に愛を与えられるんだろうか。壮ちゃん!俺はあとどれくらい生きるのかな?俺がじいちゃんになって孫がいるなんて平凡なビジョンはまったく見えない。勘違いしないでよ。自ら死にたいとかじゃないからね。ただ浴びる程酒を飲んできてそれを仕事にしてきたわけだしさらに仕事が忙しく体を酷使してるから俺が長く生きるビジョンが見えないだけ。だから俺がやるべき事があるなら早く知りたい。だって壮ちゃんは俺が自分で生きる目的を見つけなきゃ許してくれないんでしょ。こんな俺に何が出来るのかな?って思うよ。女1人幸せにしてやれない俺だよ。

『慶太郎!準備できたよ。今日はどこへ連れてってくれるの?』

『うん。ちょっと遠出のドライブ。千佳は俺と付き合ってて楽しい?』

『もうまたなんでそんなことを言うの!慶太郎は別れたいの?私が邪魔なの?私には何も話せないんだもんね。私は慶太郎に大事にされてるって思うよ。でも私は慶太郎を癒せないなら私が居る意味がないのかなって思ってしまう』

『ごめん。そういう事はないんだけど。そう思うなら俺が悪いね』

『慶太郎はそうやっていつも自分が悪いって言うよね』

『いやでも俺が悪いでしょ』

『だからそうやって慶太郎は自分が悪いって終わらせてばかりじゃん』

わかんないんだよ。ごめん千佳。今日は久々のデートなんだから楽しんでもらいたい。

『ここだ。本当に田舎だよ。千佳!川に魚がいるよ!来れる?手貸して。危ないよ』

『うわぁーすごいね!水が綺麗!透き通ってるよ!あの山から流れてるのかな?空気もなんかおいしいね!慶太郎はここに来た事があるの?』

『いやないよ。ここは俺の親父が育った場所みたいなんだ。あっ!これが小学校か。廃校になっちゃってるよ。ここに通っていたんだろうな。千佳!見て!小学校の鉄棒ってこんなに低かったって。俺の腰までないよ』

『本当だね。慶太郎は身長あるから余計低く感じるんじゃない。逆上がりとか出来た?私出来なかったなー。体育は苦手だったよ』

『逆上がりぐらいできましたよ。俺バク転も出来るよ。ちょっと財布とジャケット持ってて。いくよ』

『ちょっと本当に大丈夫なの?もう10代じゃないんだよ!全然やってないんでしょ?うわっ!すごい!慶太郎は運動神経いいんだね!サーフィンもやってるもんね。見た事ないけど』

『中学の時に波乗りの合間に砂浜でユズルとバク転の練習してて出来るようになってからは海行くとやってるよ。まあ俺は幼稚園の頃に体操教室とかスイミングとか色んな教室に通わされてたからその頃に培ったんだろうね。幼い頃の体験は今になって感謝していますよ。文武両道を身につける事を教えられたからね。行きたくない日もあって俺は泣いてダダこねてた。尻を叩かれて結局行かされるんだから無駄に痛い目にあっただけなんだけどおかげでいろんなことが出来るようになったんだろうなって思う。厳しかったけどね』

『そうなんだ。でも幼い頃の体験て大事だよね。吸収力が違うし。なんか慶太郎も小学校受験する子みたいに忙しい子だったんだね。私は小学校の時にお習字習ってたぐらいで何にもしなかったな』

『そうだね。忙しい子だったよ。今も忙しいし。俺はずっと忙しい人生なのかな。千佳は習字を習ってたから字が上手なんだ。俺は左利きだから習字はダメだね。やりにくかった』

『そうだよね!慶太郎は左利きだもんね。英文とか書く時手が真っ黒になるんじゃない?』

『うん。英文じゃなくても真っ黒な時もあったよ。まあでもなんでも慣れだね。いつしか上手く汚さず書けてましたよ』

『慶太郎は!お箸だけは右でも使えるよね!』

『うん。利き手を骨折したことがあって箸はなんとか使えるね。まあ食べにくいっちゃあ食べにくいけど。そろそろ暗くなってきたな。行こうか』

『どこに?うわぁー綺麗。あれって蛍?私初めて見た。なんだか神秘的。素敵だね!』

『うん。俺も初めてだよ。綺麗だ。蛍の命も儚いのに一生懸命光って相手を見つけ命を繋いでいくんだな。なんか幻想的だ。自然の偉大さは神秘の蛍を育むんだね』

『うん。川が綺麗だもんね。素晴らしいよね』

壮ちゃん!壮ちゃんはこの土地で9歳から育ったんだよね。この自然の中で遊んでもらって壮ちゃんも神秘の蛍を見たんでしょ?だから俺に自然の偉大さを教えてくれたんだね。壮ちゃんを育ててくれたこの自然の大地に感謝します。ここがいつまでも人間に破壊される事なく守られる事を願うよ。そして俺は21歳の誕生日を迎えた。千佳は俺の食事の準備をして出勤し冷蔵庫に入ったデザートには小さなメモ書きでおめでとうと書いてあった。結局俺達がまともにデートをしたのは壮ちゃんの故郷に向かい蛍を鑑賞出来たのが最後ですれ違う生活の中、翌年千佳の誕生日でもあるバレンタインデーに俺はホストの仕事があり前日にお祝いをしたが誕生日後に俺達は別れると言う決断に至った。千佳!本当にごめんな。俺が愛を理解出来ないばかりに君を傷つけたね。俺は君を大切に思うからこそ幸せになってほしいよ。俺ではきっと無理だから。君を苦しめてしまうだけでしょ。俺みたいなクズと居るより幸せにしてくれる人と君は出逢えるはずだよ。俺を本気で恋させた素敵な女性だからね。俺が縛ってきた3年と言う時間を返してあげられないけど君には誰よりも幸せになってほしいです。俺のそばに居てくれてありがとう。君は俺の大切な人になっていました。だから君の幸せを心から願うよ。
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