いつか君に届け
生と死
千佳と別れて1ヶ月が過ぎた。俺は新しいマンションを借り千佳にはお詫びとして俺が借りていたマンションにそのまま住んでもらう事にし家賃は俺が払っていく。こんな事しか出来ないんだ。ごめんな千佳。あーとりあえず荷物がまったく片付いてねー。誰かやってくんないかな。俺は片付けが苦手だ。壮ちゃん!俺は何をしているんだろう。また人を傷つけてしまいました。傷つけたくない人を結局傷つけてしまった。俺はもう女と付き合う事はないよ。俺には無理だ。壮ちゃんはまた怒る?無理って言うと努力もしないで無理と諦めるなって言っていたよね。でも俺は俺なりに努力をしたつもりだよ。俺の努力なんか努力のうちに入らないの?壮ちゃんは俺にいつだって厳しいもんね。あー大輔か。

『もしもし?大輔?お疲れ!どうしたの?6時っすよ。今から寝るんすか?まあ俺も今から仮眠取るとこですけど』

『もしもし?慶太郎!今から迎えに行くから着替えてろよ』

『はい?あのー俺が今言ったの聞いてました?今から仮眠を取るんすよ。すぐ現場ですからね。お前も寝ろよ!倒れるぞ。もう10代じゃないし俺ら若くないんすよ。21歳なんすからね』

『あー俺だってそうしてーよ。眠くてしょーがねー。ただ翔太が無断欠勤今日で二日目だ。あいつはアルテミスのナンバーワンホストだし無断欠勤なんて今までにない。遅刻すらない奴だ。一日目は様子見たけど昨日も出勤してこねーから連絡したが携帯も電源が入ってねーから繋がらねーんだ。翔太のマンションに行くぞ!体調悪いのかも知れないし何かあったに違いない。お前が経営者だ。寮の為に借りてるマンションだからお前合鍵持ってんだろ?持っておりてこい!あと15分もありゃ着く』

『マジっすか。そんな急に合鍵って言われても俺は引越した荷物がダンボールに入ったままだから今からじゃ探せねーよ。どこに入ってるかわかりませんからね。管理人に事情話して開けてもらいましょう』

『お前!必要なものぐらいちゃんと管理しとけ!とりあえずもうすぐお前のマンションに着く!降りてこいよ!』

『はい。すいません。わかりました』

翔太どうした?何かトラブったのか?

『こんな早朝からすいません。ご迷惑おかけします』

『いえいえいいですよ。これが雇われの私の仕事ですから。305号室でしたね?』

『はい。そうですね。すいません。ありがとうございます』

『翔太!居るのか?開けるぞ!出てこねーな。慶太郎!鍵!』

『あー。はい』

『翔太!お前何やってんだよ!何があったんだ!慶太郎!救急車!慶太郎!早く!おい!慶太郎!救急車呼べっつってんだろ!』

『大輔。もう翔太はダメだ。死んでるよ』

『わかんねーだろ!もしもし?すいません!救急車お願いします!早くして下さい!』

翔太は運ばれた病院で死亡を確認された。死因は首をつっての窒息死。手首には無数のリストカットをした跡がありためらった傷がいくつも残されていた。翔太の部屋には両親へ宛てた遺書と俺達への遺書が残されていた。遺書には少し血がつき汚れた箇所もあった。迷惑をかけてすいませんと俺達の遺書には書かれていた。翔太の両親には莫大な借金があり翔太も両親の借金を返そうと頑張っていたらしい。でも返しても返しても一向に減らない借金に疲れもう頑張れないと二十歳の若さで自ら命をたった。上京してきた両親は翔太に頼りすぎていたと泣きながら言いご迷惑をおかけしましたと翔太を連れて田舎へと帰っていった。

『慶太郎!悪い。翔太がそこまで追い込まれているなんて俺はまったく気づかなかった。無断欠勤の前日も変わりなく笑顔で今日も頑張りますと言っていたんだ。俺は全然気づいてやれなかった』

『大輔!それは俺も同じだ。お前の責任じゃない。経営者は俺だ。借金があるなんて一言も聞いてなかったけどあいつなりに親孝行をしようと頑張ってきたんだな。親の借金を返す為に2年も頑張ってきたんだ。そりゃ疲れるよな。自分の為じゃねーんだもんな。生と死は隣合わせだ。一瞬なんだよ大輔』

『だからって自ら命を捨てるのは罪じゃねーか!あいつはバカだ!なんで相談しねーんだよ。クソっ!』

『大輔。人の命も儚いものだよ。翔太が選択した事だ。人はいつだって間違いを犯す。命を与えてくれた神に逆らってな。帰ろう。俺達は生かされるだけ生きなきゃならない』

『あぁー』

翔太!お前は間違っているよ。今、後悔しているんじゃないのか?お前の命はお前だけのものじゃない。でもお前が頑張れないって気持ちになった事を俺は少しわかるよ。俺だって何度ももう頑張れないと思ったさ。死ねばラクになれるのだろうってな。でも俺はラクになってはいけない。苦しむ必要があると思って生かされるだけ生きてきた。お前が選択した自殺はさらに誰かを苦しめるんだってわかっている?死なれた家族の苦しみを考えたか?そんな余裕がお前には無かったんだろうな。それ程お前は追いつめられ逃げ出したくなったんだろう。君は20年と言う人生をあっちでどう振り返るかな?翔太!さようなら。お前に何もしてやれず悪かった。俺は本当に何も出来ないな。壮ちゃん!俺は自分の従業員1人も救えないよ。俺はやっぱり誰の役にも立たず自分の犯した罪にただ日々苦しみを味わって生きろってのが俺のやるべき事なのかな。まるで生き地獄だね。俺みたいなクズにはそれぐらいの罰は当然か。俺は翔太の姿を見た時息が出来ないぐらいおかしくなりそうだったよ。大輔がいる前で平静を装うのが出来ていたのかよくわからない。完全にフラッシュバックを起こしていた。俺は弱い。まだまだ弱すぎる。こんなに弱すぎたら俺は罰を受け止めきれないよね。俺は罰を受けなきゃいけないんだ。だから生きてなきゃね。俺に死ぬ事が許されるまで。桜の季節はいつだって儚いな。まだつぼみの桜はもうじき満開を迎えあっという間に儚く散りゆくんだろう。桜はただ咲いてただ散っていく。そこに何か意味はあるんだろうか。意味などない事を教えているのかな?桜のように俺にも生きる意味などなければ俺だって生きていなかっただろうね。罰を受ける為に生きる。今はこれしか俺が生きる目的の答えは出せません。他にもあるんですか?俺が生きる理由はあとどれくらい残されていますか?俺に答えを全部見つけられるかな。自信ないよ壮ちゃん。
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