いつか君に届け
絶望
僕は何をするでもなくただ病院の窓から外の景色を眺めていた。眺めているけど景色を見ているわけでも見えてもいなかった。頭の中で整理するのに精一杯だったんだ。すると突然後ろから僕を抱きしめてくる人がいて見ているようで見えていない景色や病院の中の様子がやっと目に入るようになった。僕を抱きしめてくれている人は病院の先生だ。白衣を着ている。でもどうして僕を抱きしめてくれるんだろう。先生がぶら下げていた名札は結城壮一郎と書かれていた。壮ちゃんと同じ名前だ。壮ちゃんに会いたい。もう僕なんだかとても胸のあたりが息苦しい。長い間黙って僕を強く抱きしめてくれていて僕は冷静だったのに先生が抱きしめてくれて僕はやっと泣きだした。だって抱きしめてくれた先生がとてもあったかくて真っ暗で孤独なような景色しか見えない僕はきっと絶望の中にいたから人の温まりを感じて1人じゃないと言う事に安心して泣けたんだ。ひとしきり泣いたあと先生は同姓同名の人違いではなく僕が会いたいと願っていた壮ちゃんだった。

『慶太郎!大きくなったね。君は6年間をどう生きてきたの?俺はずっと慶太郎を想っていたよ。君の事が心配で仕方なかったけど君にとって俺は単なるベビーシッターで君に何もしてやれなかった。ごめんな慶太郎。辛い思いをしてきたんだろ?助けてあげられずごめん』

『壮ちゃん。やっと会えた。僕嬉しいよ。壮ちゃんが会いに来てくれないのは僕がお受験頑張らなかったから壮ちゃんも怒ってて許してくれないんだと思ってた』

『お前はよく頑張ったじゃないか。俺は怒ってなんかいないよ。むしろ俺の力不足で慶太郎の受験を失敗させてしまって慶太郎に申し訳ないと思っていたよ。慶太郎?慶太郎?お前熱があるじゃないか。おいで。お父さんが来るまで横になっていなさい。しっかり食べていたのか?疲労かな。点滴をしよう。慶太郎!目をつぶってごらん。少し休みなさい。疲れたね』

『壮ちゃん。逢いたかったよ。ありがとう』

僕が目覚めた時にはお義母さんが来ていた。

『慶ちゃん!大丈夫?体調悪かったんだね。気づいてあげられなくてごめんね』

『いえ。大丈夫です。お父さんはどこですか?』

『うん。お葬式の打ち合わせに行ったよ。慶ちゃん!帰ろう』

『はい』

『慶太郎!また顔を見せに来てくれよ。あんまり無理せず今日は帰ったらゆっくり休んでおきなさい』

『はい』

僕は薬のせいか熱のせいかなんだか状況が飲み込めなかった。何がどうだったんだっけ?家に帰って僕はお母さんの葬儀の後気が狂っていた。もう誰も大人なんか信じられない。僕は6年間何の為に頑張ってきたのか今まで我慢してきた怒りが一気に溢れ部屋中の物を壊し窓ガラスを割り暴れ回っていた。僕はお義母さんにも怒りをぶつけていたんだ。

『慶太郎!やめなさい!落ち着け!』

『うるせーんだよ!俺の6年間は何だったんだよ!何の為に頑張ってきたと思ってんだ!あんたはお母さんが喜ぶって言ったじゃねーか!あんたが言ってた事は全部嘘だったんだろ!ふざけんなよ!』

『きゃっ!慶ちゃん!落ち着いて!』

『うるせー!黙れ!あんたに関係ねーよ!』

こんなふうになってしまった僕に手を負えなくなったお父さんは僕を壮ちゃんの所に連れていき僕は2月の終わりぐらいから壮ちゃんに引き取られ壮ちゃんの養子にとして壮ちゃんとの生活をスタートさせ合格した私立中学に通う事になったんだ。お義母さん!あなたに八つ当たりしてごめんなさい。僕が投げつけたコップはあなたに当たりませんでしたか?もう何がなんだかわからないんです。頭の中でうまく整理がつかなくて自分でも僕は壊れていると思います。やっぱり僕はこの家に居てはいけない存在でした。お義母さん!僕に気を遣わせましたね。すいませんでした。お義母さんは悪くないんです。僕が弱く現実を受け止めきれないだけなんだ。本当にごめんなさい。僕は小さい悠にもケガをさせていませんでしたか?僕はいない方がいい。
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