いつか君に届け
初登校
『慶太郎!起きなさい!慶太郎!遅刻するよ!起きなさい!』

『いってぇー!わかったから尻叩かないでよ!もう僕は幼稚園児じゃない!』

『じゃあ起こされなくても自分で起きられないかな?もう中学生なんだからね』

『俺低血圧だから』

『そんな事を言い訳に使用して俺に通じると思ってるのかな?早く起きて準備をしなさい。朝食出来てるよ。慶太郎!グズグズしてたら初日から遅刻だぞ!本気で尻叩こうか?俺はけっこう温厚だから慶太郎みたいに気は短くないんだけどお前は尻を叩かれなきゃ出来ないかな?』

『嫌だ!起きる!あー通学だるすぎる。壮ちゃん!引っ越そう!遠いよ!ラッシュ時に40分もかけて通うの嫌だ!それか運転手つけて』

『慶太郎くん。もっと普通の感覚を身につけようね。君の実家よりも近い方だし1時間ぐらいかけて通う子なんて山程いるんだよ。君は40分でしょ。充分通える距離だ。まだグズグズ言うんだったらお仕置きしてもいいんだけど』

『いやだよ!シャワー浴びてくる』

『そんな時間があるわけないだろ!シャワー浴びたいんだったらもっと早く起きなさい!』

『だからその通学の40分が無駄なんじゃん。うわっ!嫌!いったぁー!痛い!ごめんなさい!すぐ着替えるから!痛い!』

『まったくお前は本当に変わらないね。寝癖が気になるんだったらもう30分早く起きるんだな。ほら!早くして!朝食食べる時間なくなっちゃうだろ!』

『わかったってば!うるさいな』

『何?慶太郎くん俺が言ってる事で何か間違ってる事があるのかな?あるなら教えて欲しいんだけど』

『ないです。でも幼稚園の頃は壮ちゃんが送り迎えしてくれたじゃん!だから運転手ぐらいつけてほしい』

『うちは一般家庭なんだ。俺がいくら医者でも所詮勤務医なんだからね。君は結城慶太郎だよ。どこかのお坊っちゃんじゃないんだ。早くしなさい!俺まで遅刻するだろ!駅ぐらいまでは送ってやるからさっさと食べる!もうこれが最後勧告だよ慶太郎』

『わかった!いただきまーす!』

『慶太郎!夕飯はちょっと遅くなるけど待っててくれよ。お腹すいたらパンケーキがあるからね。軽くは食べてて。気をつけて行くんだよ!慶太郎!行ってらっしゃい!ほら!電車来るよ!定期落とすんじゃないぞ!』

『わかったって!行ってきまーす!』

お義母さん!俺は今日から結城慶太郎として中学校へ登校します。私立の進学校だけあって小学校の頃のような頭の悪い奴はいません。壮ちゃんは小学校受験する頃のように勉強しろとは言わないんだけどそれでも俺は9年間と言う習慣が抜け切れず勉強をしていないと不安になります。受験に落ちた小学校の6年間は常に俺は追い込まれていたから成績が下がる事に恐怖感がありテストを見せるのが嫌でした。けして悪くない点数でもお父さんには100点以外は認めてもらえなかったからです。

『おはよう!僕は村上智也。隣の席だからよろしくね』

『うん。おはよう。俺は結城慶太郎』

『慶太郎って呼んでいい?僕の事は智也って呼んでくれていいから』

『うん』

『いきなり小テストあるんだね。慶太郎はもう大学は決めてるの?』

『いや全然。だってまだ中1じゃん』

『そうだけどだいたいの子が中学受験が終わったら次は大学受験に向けて目標決めて絞り込みしていくらしいよ。やっと受験が終わったーなんて呑気にしていられないって事だね。まあそういう僕もまだ大学は決まってないんだけどね。頑張ってきたのに終わりなき受験戦争の中に潜り込んじゃった感じだよ』

『そうなんだ。俺は大学に行くのかもわかんないよ』

『え?それはないでしょう。慶太郎!僕達は魁聖に通ってるんだよ。ここに入るのにどれほど努力してきたと思ってるの。努力が水の泡だよ』

『智也は将来の夢があるの?俺にはないんだけど』

『将来の夢って言うかまあ医学部に入りたいね。そこそこのレベルでもいいから。親の期待を裏切らない程度に生きるしかないでしょ。ここに通う子なんてだいたいみんなそうなんじゃないかな。親の希望で気づけば受験戦争の中に投げ込まれていただけで自由意思って子は少ないんじゃないの?親の期待に応えたいし喜ばせたいから頑張るしかなかった。慶太郎は違うの?』

『あー。そうだね』

『慶太郎!ちょっと遊んで帰らない?今日は塾がないんだ。慶太郎は塾?家庭教師?』

『塾なんか行ってないからいいよ』

『えっ?行ってないの?凄いね。魁聖入ったから終わりじゃなくこれからも戦いは終わらないんだよ』

『俺はもう期待なんかされてないからどうでもいいよ』

『そうなんだ。僕も優秀な兄がいるからおまけみたいなもんだけどね』

『おっ?智也じゃん!私立行ったんだってなー!いいねー坊っちゃんは!ちょうどよかった!金貸してくれよ!俺達ゲーセンで使っちゃって電車代なくて困ってたんだよね。小学校の同級生が困ってんだから助けてくれるよな?なあー智也!いつも助けてくれてたじゃん!お前が私立なんか行くから俺達困りまくりだよ!』

『あ、うん。いくら?』

『何言ってんの?智也!こんなバカな奴らにやる必要ねーじゃん!』

『はあ?なんだてめぇ!誰がバカだよ!なめてんじゃねーぞ!』

『お前らがなめてんじゃねーよ!努力もしねーで遊びまくって楽して公立しか行けねーバカだろ!』

『慶太郎!やめよう!いいじゃん!今日は5000円しか持ってないけど電車賃なら足りるよね?』

『おう!最初から出せよ!バカ!』

『バカはてめぇらだよ!』

『は?っぐぅ、てめぇ!ふざけんなよ!』

『慶太郎!やめようよ!僕はいいんだよ!』

『っうぅ、よくねーよ!智也はこんなバカ共にずっと金取られていいのか!っぐぅ、バカはハイエナの知能しかねーんだよ。カモにされたらずっと取られるぞ!』

『てめぇーはさっきからバカにしまくってくれてんじゃねーか!っうぅ、ボンボンにしてはそこそこやるな!でも所詮ただの坊っちゃんだぜ!死ねやー!』

『っうぐぁー、うぅーいってぇー、ハアハア、っぐぅ、ハアハア』

『もうやめて!お金渡すから!』

『ハアハア、早く出せ!行くぞ!』

『慶太郎!大丈夫?腕折れてるかも知れないよ。病院行こう!』

『ハアハア、な、なんで渡すんだよ!っう、そんなんじゃなんも解決しねーよ!』

『いいんだよ。相手にする方がバカでしょ。もう学校だって違うんだからたまにぐらいどうって事ないよ。でもありがとう!慶太郎!僕の為にこんな目にあって。立てる?』

『慶太郎!どうしたの?とりあえず診せてごらん。あー鈴原さん!レントゲン回してくれる?』

『あの!慶太郎くんのお父さんですか?すいません!僕のせいなんです。慶太郎くんとカラオケに行く途中に僕の小学校の同級生と会ってお金を貸してほしいって言われたのを慶太郎くんが渡しちゃダメだって喧嘩になったんです。怪我をさせてしまいすいませんでした』

『そう。話してくれてありがとう。あいつはなかなか言ってくれないからね。これからも慶太郎と仲良くしてやって。慶太郎は俺が連れて帰るよ。治療待ってたら君も遅くなるし帰りなさい。お金はあるの?』

『お金は半分しか渡してませんから大丈夫ですし定期があります。失礼します』

『はい!じゃあ気をつけてね!』

『先生!レントゲンあがるまで顔の傷を手当てでよろしいですか?』

『俺は手があいてるからやりますよ。俺の息子ですから』

『はい!じゃあお願いします!』

『利き手やられちゃったね。慶太郎くん。ちょっとしみるよ』

『っつ!いったい!看護士さんがいい!壮ちゃんは痛い!』

『誰がやってもしみるよそれぐらい。殴られるより痛くないだろ』

『だって壮ちゃんは怒ってるんでしょ!痛いって!もっとそっとやってよ!』

『なんで俺が怒るんだよ。同級生を守ろうとしたんだろ?お前は偉いよ。でもお前にもしものことがあったらと思うと心配なんだけど。骨折程度ならいいけど無茶はやめろ。それに相手にだって怪我をさせるべきじゃないしそういう時は大人を呼びに逃げなさい』

『嫌だ!バカ相手になんで逃げなきゃいけないんだよ。俺がもっと強くなればいいだけじゃん!いてっ!』

『まったく聞かない子だね。あっ!写真見せてくれる?あーきれいに折れてるね。ギプスお願いします。慶太郎!利き手の左手をやられたら不便だよ。不自由さを味わうのもいい経験だけど大怪我するような事はやめてくれよ。よし正面玄関で待ってなさい。俺はもう上がってる時間だから』

『うん。わかった』

お義母さん!俺は入学早々怪我をしてしまいました。結局金も取られて俺が骨折した意味もなく努力もしない無能なバカ共に金を奪われるなんて悔しいです。俺はもっと喧嘩にも強くなります。壮ちゃんはすごく心配してくれるけど俺は壮ちゃんが言うもしもがあってもいいんです。俺には将来の夢もないんだしそれで終わりならそれでいいって気持ちがあります。でも利き手を骨折すると本当に不便で壮ちゃんが五体満足の体を持って生まれる事は当たり前じゃなく怪我をして不便な体になってこそありがたさを学ぶ事もあるんだって言っていました。俺にはまだよくわかりません。俺は殴られた顔では喧嘩がバレるとまずいので1週間ぐらい学校を休みその間に利き手じゃない右手での訓練をしました。壮ちゃんは夜勤じゃない限り俺とお風呂に入り髪を洗ってくれたり食べさせてくれたりしています。幼稚園の頃は何かと自分でやりなさいと言い出来ないって言うと怒ったくせに怪我をすると優しいです。でもお仕置きは厳しくなってきて怖いし怪我をしていてもお尻を怪我してるわけじゃないんだからと容赦なく叩かれて反省として立たされています。手は怪我をしているからおろしててもいいって言うけど俺は中学生になったのに壮ちゃんに怒られて泣いているんです。これじゃあ幼稚園の頃と変わらないと言うよりさらに厳しく感じます。俺が怪我をする原因となって友達になりかけていた智也は俺が休んでる間に登校しなくなったらしく俺は結局あれ以来会えていません。もう俺の手も治りそうなので夏休みになったらボクシングを習いたいと思っています。次は喧嘩で負けないようにです。その前に中間テストや期末テストがあるのでそれまでは勉強をすると思います。習慣なので毎日やってはいるんですけど智也が言ってたように進学校なので入学してからもみんな塾へ行ってるみたいです。俺もまた塾へ行った方がいいのかな?と思うけど今は目的が見つからないので中間テストの順位次第で考えます。お父さんや慎二郎、悠之心は元気ですか?お義母さんにコップを投げつけたり窓ガラスを割って暴れた事を謝ろうと思い何度もメールしようとしては結局消してしまいます。こうやって心の中で話してるように会話が出来たらいいのにと思ってはいるんですけどまだ俺が弱いからダメなんです。ゴールデンウィークは壮ちゃんが2連休だけ取れるので登山に連れて行ってくれるそうです。俺は登山なんかやった事がないからわからないけどけっこうしんどいし自分との勝負らしいです。弱い俺にはちょうどいいと思います。
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