いつか君に届け
狂った世界
『もしもし?慶太郎?夕飯は食べたの?自分で出来たか?レンジであっためるだけなんだけど』

『もしもし?壮ちゃん?それぐらい俺だって出来るよ!食ったし大丈夫!』

『そう。食器は洗えたの?ちゃんと洗って片付けてくださいね』

『うん。わかったよ!』

『明日学校休みだからって夜更かししないで寝るんだよ。朝には帰る予定だけど急患があればわからないしパンが買ってあるからもし俺が遅かったら先に朝食は済ませていいからね。まあ君は寝てるんだろうけど。もう22時過ぎてるんだから絶対外出は禁止だぞ。慶太郎!わかってるの?』

『わかってるって!』

『慶太郎!ごめんな。夜一緒にいてやれなくて』

『クソ親父より断然壮ちゃんの方がちゃんと俺と一緒にいてくれてるじゃん。仕事なんだからしょうがないし別に問題ないよ』

『慶太郎!暴言には気をつけなさい。クソ親父じゃないでしょ。早く寝るんだよ!おやすみ!慶太郎!』

『わかった!壮ちゃん!おやすみなさい!』

お義母さん!親バカの壮ちゃんは帰ってこれない当直の日には俺の夕飯を準備してから仕事に行きます。そして俺の携帯ではなくて家の電話に時間さえあれば電話をかけてきます。俺が1人だと心配だからって言うけどもう中学生なんだから心配しすぎって言うより壮ちゃんの中で絶対俺は幼稚園児のまま成長が止まってるんじゃないかと思います。だいたい俺は今までずっと1人で居たし大丈夫だって言っているんだけど心配症みたいです。

『智也!ごめん!待った?』

『うん!ちょっとね。慶太郎!手はもう治ったの?』

『うん!もう余裕!なんで智也は学校来ないんだよ。俺のせい?』

『違うよ。もちろん巻き込んで慶太郎に怪我をさせたのは悪いと思っていたよ。親の離婚話しが出ててどっちにつくかとかもうめんどくさくなっちゃってさ。こっちは魁聖入る為に一生懸命勉強して遊ぶのも我慢してきたって言うのにね。受験だってしたくてやったんじゃないし次は離婚話しでいい加減親に振り回されるのがバカバカしくなって引きこもってゲームざんまいの生活をしていただけ。考えるのもうざったくてね。連絡ありがとう!慶太郎が心配してくれるなんて意外だったよ』

『なんで?まあ俺は基本人と群れたがらないけど』

『そうだうろね。慶太郎の第一印象はクールだったからね。どうする?どこへ行く?』

『どこでもいいけど』

『じゃあ僕の知ってる店に行こう』

『店?なんの?俺お小遣いかなり少ないんだけど。小学生の時より減ったからな』

『大丈夫だよ!兄の知り合いだし』

『ふーん。まあいいよ』

『こんばんは!さつきさんをお願いします』

『あら?智ちゃん!どうしたの?久しぶりだね!元気だった?受験受かったんだって!すごいじゃん!』

『うん!だからお祝いしてください。この子は僕の友達で慶太郎。同級生です』

『へーかわいい子じゃん!奥の部屋なら大丈夫だよ!貸し切りにしてあげるから好きなだけどうぞ』

『うん。ありがとうございます!慶太郎!行こう!』

『うん。何?なんの店?』

『まあ夜の世界かな。さつきさんは兄の彼女なんだよ。元は男なんだけどね。まあ今もアレはついてるから男かな。とりあえず僕達の合格祝いをしよう。慶太郎は何飲む?大丈夫だよ。裏口から入ってるし個室だから中学生が飲んでてもバレる事はないよ。バレたら停学か下手したら退学だからね』

『え?さっきの人は男!?完全に女かと思った。智也はよく飲みに来るの?』

『まあたまーにかな。受験勉強でストレス溜まった時とかに兄の彼女だから特別に配慮してもらってね。カクテルかビールどっちがいい?』

『どっちも飲んだ事ないんだけどビールでいいや』

『いい子ぶるのも疲れるからね。たまには息抜きしないと親の期待に押しつぶされてしまうよ。タバコはいらない?もう僕の兄は二十歳になるから手に入れるのは簡単だよ。ここのお姉さん達もいい人だし。元はみんなお兄さんだけどね。慶太郎も良かったらどうぞ。とりあえず魁聖合格の為に頑張ってきた僕達と出逢いに乾杯!』

お義母さん!俺は知らない世界を知りました。智也は見かけによらず俺の知らない世界を知っています。12歳で初めてビールを飲みました。タバコは親父の書斎で見つけて1度試した事があったけどまずかったからそれ以来です。俺は完全に酔っ払ったようで気持ち悪くなったけど智也は慣れているみたいで平気そうでした。その店の店員であるお兄さんに俺はバイクで送ってもらう事になりこのお兄さんは女の格好をしていない普通の男で裏方の仕事をしていると言っていました。18歳のお兄さんです。智也はさつきさんと帰るから店で待つと残りゴールデンウィーク明けにでも学校で会おうと言ってました。

『大丈夫か?けっこうふらついてるみたいだけど』

『はい。大丈夫です』

『俺はサトシ!お前は?』

『慶太郎です。俺にもバイク乗れますか?気持ち良かったです』

『あーまた今度教えてやる。いつでも連絡してこいよ。じゃあな』

お義母さん!バイクは気持ちいいです。酔いもさめるぐらい風を受けて走るバイクに興味を持ちました。サトシさんはモトクロスと言うバイクの競技をやっているそうです。俺は勉強ばっかりしてきて何も知らなかったけど世の中には俺の知らない世界が溢れているんだと思いました。

『慶太郎!おはよう!もう12時になるからお昼なんだけど朝食にする?』

『うん。おはよう壮ちゃん。俺シャワーあびてくる。ご飯いらない』

『慶太郎?眠そうだね。もう昼近くまで寝ていたのに。夜ふかししないで寝なさいって俺は言ったはずなんだけどいつ寝たの?』

『うん。忘れた。何時だったか覚えてない』

『どうして?体調でも悪いのか?いつも朝食は食べるよね。だから俺は慶太郎と食べようと思って起きるのを待っていたんだけど』

『あとで食べる。昼めしにするよ。壮ちゃん寝れば?当直明けだから眠いでしょ』

『慶太郎!俺はどうして?って聞いてるんだけど』

『もういいじゃん!なんで朝飯食わないぐらいで怒られんの!』

『怒ってないんだけど。今はまだね。いつも食べる食べ盛りの子が食べないって言うと普通どこの親も心配すると思うけど違うかな?体調悪いのか?って聞いただけなんだけど慶太郎に後ろめたい事があるからイライラしているんじゃないのか?君の得意な忘れたと覚えてないを発した時俺はだいたい君の声のトーンでなんかあるってわかるんだけど。嘘か本当かってね。さすがに100%とは言わないけど。目を合わさないのも気になるところだし』

『頭痛いの!それだけだよ!』

『じゃあ頭痛薬飲む?それとも二日酔いのドリンクがいい?うちにはそんなものないけど。アルコールなんて置いてないのにどうして慶太郎は酒くさいのかな?』

『知らない!』

『やっぱり尻を叩かれないと本当の事が言えないか?慶太郎!来なさい!』

『嫌だ!知らない!無実だ!冤罪反対!うわっ!嫌だ!や、痛い!いった!いや!痛い!やめて壮ちゃん!いってぇー痛い!やだ!っく、痛い!痛いよ!ごめんなさい!いたーい、うっく、いたっ、痛いよー!もうしない!』

『慶太郎!何をもうしないんだ?』

『ひっく、痛い!さ、酒飲むのしない。うっく、っく、いたー!痛いよ!ご、ごめんなさい!うっく、痛い!』

『俺はお前の人格形成される1番土台となる大事な幼い頃を見てきたんだよ。だいたい土台は変わらないものなんだ。だから三つ子の魂百までと昔から言われる程幼い頃の環境ってとても大事だし少なくとも12歳までにほぼ人格は出来上がるからそれまでが大事なんだ。俺は7歳になる年までのお前を見てた。基本的な根っこの部分である性格ってなかなか変わらないものなんだよ。君はある意味素直だからね。嘘をついてると俺にはすぐわかるんだ!どこで酒を飲んだんだ!慶太郎!何が冤罪だ!』

『っく、わ、わかんない。うっく、ごめんなさい!』

『なんでわかんないんだよ。自分で行ったんだろ!何がわからないんだ?』

『うっく、だ、だって男なのにお姉さんになってる場所、っく、なんて言うとこかわかんない、うっく、っく』

『おかまバーか?ゲイバー?なんでお前がそんな所に行けるんだよ!中学生のお前が入れる場所じゃないぞ!』

『と、智也のお兄さんの彼女がいるの!うっく、でも男だけど、い、意味わかんないけど知り合いだから入れるって。うっく』

『はぁー。それでそこでお酒を飲んで気持ち悪くなったんだな』

『っく、なんで男なのに、お姉さんになるのかわかんない!』

『まだお前はわかんなくてもいいんだ!もう行くんじゃない!それに未成年が酒を飲む事は法律でも禁止されてるんだって話しをしたはずだよ。色んな事に興味が出てくる歳だけど悪い事だって事は自分でもわかっていただろ!あと何を悪い事したんだ?』

『っく、し、知らない!痛い!えっとータバコも貰った、っく、でもまずかった、うっく、痛い!いたー!っく、いたーい!ごめんなさい!うっく、しないから!っく、痛いよー!も、もう行かない、うっく』

『慶太郎!お前は22時以降外出禁止だって言ってあるよね?俺と電話したのは22時30分ぐらいだよ。早く寝なさいって言ったよな?その後に出たんだろ。その分のお仕置きもするぞ。ルールはちゃんと守りなさい!』

『っく、痛い!いたー!うっく、痛い!ま、守る!いたーい!痛い!っく、ごめんなさい!っく、痛いよー!っく』

『ほら!終わりだ!尻出して反省してなさい!もう二度とそんなとこに出入りするんじゃない!だいたい夜に外を出歩くとロクな事をしないのが目に見えているから22時以降の外出を禁止してるんだろ!お前は好奇心が旺盛で何でも興味を引くものの誘惑に乗りやすい性格なんだよ。良い事に発揮するなら吉となるだろうけど悪い事に興味を持てば凶だぞ。大凶なんて事にならないように誘われてもよく考えてから行動しなさい!わかったのか!慶太郎!返事は!』

『ひっく、は、はい。うっく、っく』

お義母さん!壮ちゃんはなんで俺の事がわかるのか不思議です。俺はそんなに単純な性格なんですか?お義母さんもわかっていましたか?お父さんなんか全然俺の事をわかってなかったです。俺のお父さんはやっぱり壮ちゃんです。そしてゴールデンウィークに入る前日の5月2日。桜もすっかり散って鮮やかな緑色の若葉が芽を出している頃智也が亡くなったと担任の先生から聞かされクラス全員で黙祷をしました。先生は事故としか言わなかったけれど俺はサトシさんから酔っ払った智也が駅のホームから転落し亡くなったと聞きました。1ヶ月も立たないうちに友達がいなくなりました。まだ12歳です。智也は魁聖中学に合格する為にだけ生きてきたみたいなつまらない人生に思えます。俺もつまらない人生を生きていくのかと思うと嫌になりました。クラスでは智也が居なくなっても何も変わりません。先生に言われ形だけ黙祷をしてみたけれど智也ってどんな奴だっけ?って感じでクラスメイトが亡くなっても興味などなく皆自分の勉強が大事みたいです。このクラスに村上智也がいたことなど誰も覚えていない。そんな感じです。智也じゃなくてもきっと同じなんだろうと思います。みんな自分には関係のない事だから。たとえ俺が死んでも同じです。こんな世界は狂っているんじゃないんですか?狂っているのは俺の方ですか?俺は狂っていたしおそらく俺がおかしいんですよね。俺はやっぱり友達はいりません。
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