いつか君に届け
別れ
慶太郎が父親の元に戻り中学2年になって夏休みに入った頃俺の元を慶太郎が訪ねてきた。

『壮ちゃん!お金ちょうだい!』

『慶太郎!なんだその頭は!ちょっと入れ!』

『痛い!引っ張っるなよ!』

『お前の学校では金髪は校則違反じゃないのか?許される事なのか?』

『そうだよ!公立は緩いからね!ちょー楽だよ!』

『堂々と嘘をつくんじゃない!そんな学校あるわけないだろ!慶太郎!お仕置きだな。嘘をつくなと俺は躾たはずなんだけどな』

『はあ?なんで今更壮ちゃんにそんな事、うわっ、ちょ、ちょっとやめろ!はなせよ!嫌だ!痛い!いってぇー!やだ!何すんだよ!っつ!痛い!ご、ごめんなさい!壮ちゃん!痛い!痛いよ!いてっ!やめて!痛い!っぐ』

『さすがに中学2年にもなると泣かなくはなったな。でもまだ終わらないぞ。慶太郎!ルールはどこへ行っても守るものだ。社会だってルールを守らなければ罰されるんだよ。秩序が乱れるからな。ルールは守る為にあるんだ。中学生であるお前はお前の通う学校の校則に従う義務があるんだよ。その頭丸めるか?どうする?慶太郎!まだ尻を叩かれたいか?』

『嫌だ!なんでそんな事をしなきゃいけねーんだよ!いったぁー!俺、お仕置きされに来たんじゃないだけど!痛い!やだ!はなせよ!やめろよ!バカ!いってぇー!いや!痛い!っつ。いたっ!痛い!わかったからやめて!』

『相変わらず痛い思いをしないとお前はわからないんだな。慶太郎!反省がまだだ。尻出して立ってろ!覚えてるだろ?悪い事だってわかっててやったんだからな!しっかり反省しなさい!反省ができたら頭を丸めに行こう』

『マジかよ!嫌だよ!うわっーぎゃーいってぇー痛い!痛い!行く!行くから!やめて!』

『ん?お前タバコの臭いがするけどまさか持ってるのか?今出せば10発で勘弁してやるよ。でも嘘をついたら50発だ』

『・・・・・。えー?えっと持ってるかな?ごめんなさい!』

『お金がいるのはタバコを買う為に必要なのか?』

『違う!痛い!違わないけど!いてぇー!ゲーセンに行くの!痛い!いたっ!もうやめる!痛い!っつ、いったぁー!』

『正直に言ったから約束通り10発で今日は勘弁してやるけど反省は倍させるぞ』

『そんな!壮ちゃん!ごめん!もう許してよ!なんで俺が壮ちゃんに怒られるわけ?』

『俺はお前を息子のような弟のような気持ちで半年間接してきたし今も変わらずそう思っている。お前の事が誰よりも心配だ』

『・・・。壮ちゃん?ごめん。俺心配ばかりかけてるね』

『本当に心配していたんだぞ!学校にはちゃんと行っているのか?友達はできたか?』

『うん。出来たよ』

『そうか。良かった。慶太郎!生きててくれてありがとう。生まれてきてくれてありがとう。俺と出会ってくれてありがとう。俺の息子になってくれてありがとう。頑張れ慶太郎!お前は強い子だ。お前ならいつか乗り越えて幸せを掴んでくれると信じてるからな!慶太郎!俺が教えた事を覚えておいてくれよ。お前は勉強以外の事となると忘れっぽいからね』

『壮ちゃん。あったけー。俺も壮ちゃんみたいに抱きしめてやれる人間になれるかな?』

『なれるよ!お前は俺が育てたんだから』

『うん!』

『ほら!反省がまだだ!壁向いて立ってろ』

『え?なんでそうなるんだよ!いってぇーするよ!反省します!』

慶太郎!おかえり。相変わらずやんちゃ度は増してきているようだけどお前が生きててくれるだけで俺はいいよ。バカな事をやったなって振り返る時が必ず来るさ。お前はお金を持っているじゃないか。使いきれない程に。お父さんも相変わらずお前にお金しか渡せないんだな。お前が欲しがっているのは親の愛情なのにね。だから俺に会いに来てくれたんだろ。お小遣いを理由にして。ありがとう慶太郎!新しい家族とは上手くやっているか?でもお前をお仕置き出来るのももうこれが最後だよ。ごめんな慶太郎!あっちでお前の事を見守っているからな。荒れた思春期ちゃんと乗り越えて大人になれよ!慶太郎!

壮ちゃんに会えたのはこの日が最後だった。末期の癌だったらしく夏の終わりと共に壮ちゃんも遠くへ逝ってしまった。医者が何やってんだよ!バカじゃねーの!壮ちゃん!俺の事置いていくなよ。壮ちゃんだって忘れてるよ!俺また1人じゃん。坊主にされた髪も少し伸びてきたよ。また金髪にしたら壮ちゃんに逢えるの?俺宛ての遺書にお仕置きはお前がこっちに来る時が来るまで待ってやるから回数増やす事をするな。しっかり見てるぞって書いていた。壮ちゃん!そんな遠くから脅されたって俺、全然怖くないよ。俺のそばで怒ってよ!でも壮ちゃんが抱きしめてくれた温もりを知っているのは俺だけだから俺がもし大人になったら壮ちゃんの想いを引き継いでいくよ。そっちで怒りながら俺が大人になっていくのを見ててよね。ありがとうございました!壮ちゃん!今度は本当にさようなら。でもまた会えるよね。俺がそっちに行く時が来たらちゃんと迎えに来てね。壮ちゃん!大好きだったよ。俺を愛してくれてありがとう。
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