月夜の翡翠と貴方【番外集】


「一週間ほど前にね…父さんがスジュナちゃんに、その道のどちらかを選べって言ったのよ。うちの劇団には、最年少のロゼももう大きくなったし…子役がいないの」

…なるほど。

確かに子役がいないというのは、劇団にとって困ることかもしれない。

劇の内容も、限られてくるのだろう。


「スジュナちゃんとしては、どちらでもいいみたいなんだけど…子役がいない現状としては、役者になって欲しいのよね。だから素質を見るために、父さんが演技の試験をするって言い出して」


…演技の、試験。

あの幼い少女に、演技の試験とは。

確かにスジュナは賢い子だが、演技となると、才能の問題もある。

「それで三日後、試験をすることになったの。それはいいんだけど…試験の内容が、この劇団の誰かと一緒に、いくつかの演技をするっていうもので…」

言いながら、クランは向こうで劇団員へ飲み物を渡している、スジュナを見つめる。

スジュナの顔には、明るい笑顔が浮かんでいた。

しかし、クランの瞳は何処か曇っている。


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