月夜の翡翠と貴方【番外集】

「…笑わないで…」

「ふ、いいことじゃん。俺は嬉しいよ」

ルトが、こちらを見ながら楽しそうに笑っている。

それを横目で睨みながら、やはり顔の火照りが収まらないのを感じていた。


「まぁ、でも…あの子の問題は、これから、なんだけどね」

クランの瞳は、役者たちに笑って話しかけるスジュナへ向いていた。

その瞳は、明るかった先程とは違い、どこか辛そうに揺れている。


「…どういうことですか？」

訊くと、彼女は真剣な目をして「あのね」と言った。


「…スジュナちゃんには、まだ色んな可能性があるのよ。ラサバと一緒にいる以上、この劇団の一員なのは変わらないけど…その『一員』のあり方にも、ふたつ道があるのよ」


今は裏方をしているけどね、とクランが呟く。

私とルトはその『ふたつの道』に気づいて、ハッとした。


「…裏方と…役者？」


ルトが言うと、クランは少し困ったように「ええ」と肯定の返事をした。