月夜の翡翠と貴方【番外集】


…そう。

豪華な装飾の施された部屋に、上質なソファー。

そこにリロザと向かい合って座る私は今、エルフォード邸にいる。


何故、かというと。

ミューザの街を歩いているところで、ムクギに会ったのである。

実は、エルフォード邸にお邪魔する、と意気込んだものの、肝心の行き方がわからなくて。

どうしようかと迷っていたところ、市場の買い物帰りなのか、果物いっぱいの紙袋を抱えたムクギに呼び止められたのだ。

髪を隠すことなく歩いていたから、きっと目に止まったのだろう。

『後ろ姿でわかりました』と言われた。

『どちらに行かれるのですか』と訊かれ、正直に話したところ、彼にしては明るい声で『では一緒に参りましょうか』と言ってくれて。

そうして今、私は客間に通され、リロザと話をしているのである。

予想外の形だったが、無事エルフォード邸についたことは、良いとしても。


「…あの、お時間…大丈夫なんですか」


コトン、と高級そうなカップが目の前に置かれる。

私がそっとリロザを見つめてそう言うと、彼は「問題ない」と笑った。


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