副社長は溺愛御曹司
ヤマトさん、私のこと好きなんだって。

それって、すごいよね?

私、そんなふうに思ってもらえるような何か、したっけ。

こんなの、信じられなくたって、仕方ないと思う。


けど、そのことよりも。

こうしてまた、ヤマトさんと、笑って話せるようになったことが、嬉しくて。


目の奥が、熱くなって。

こぼれた涙が、重なった唇を伝うのを感じた。








「あのう」

「うん?」



とりあえず、お互いというか、ヤマトさんの気の済むまで、唇を合わせた後。

このまま戻ると、さっきの裏口を通らないわけにいかないことに気づいて、少し時間をつぶす必要があった。


とはいえ、道端で何ができるわけでもなく、手持ちぶさたに、というよりは嬉々とした様子で、ヤマトさんは私を離さなかった。

私の背中で手を組んで、満足そうに顔じゅうにキスを降らせてくる彼に、そういえば、と思い出して尋ねてみる。



「彼女さんて、どうなったんですか」



こめかみのあたりに口づけていたヤマトさんが、唇を触れさせたまま、誰の? と訊いてきた。

ヤマトさんのに決まってるでしょう。

そう言うと、顔を離した彼が、きょとんと私を見おろす。



「俺、ここ2年くらい、彼女つくってないけど」



えっ、そうなの?



「神崎志穂様って…」



ぽろりと口をついて出た名前に、ヤマトさんの目が真ん丸になった。





「なんでここに、おふくろが出てくるの?」







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