副社長は溺愛御曹司
延大さんの遠慮のない笑い声が、和風の、上質で静かな店内に響く。
「神谷ちゃん…最高」
「教えてあげればよかったね」
私の隣の久良子さんも、申し訳なさそうにしつつ、思いきり笑っていた。
私は、恥ずかしさと自分のバカさ加減にうんざりしながら、彩り豊かな御膳をつつく。
私以外、みんな知ってたんじゃないか。
なんだよもう。
「…お母様?」
「うん」
「苗字は…」
「うち、母親も自分で事業やってるから。別姓なんだよ」
けっこう知られてる話だと思ってたけど、と驚いたように言われ、私はもう、どう自分を罵ればいいのかわからなかった。
「孝行なご子息ですわよね、お母様のご趣味に、いつもおつきあいなさって」
「マザコンなんだよ、こいつ」
「兄貴とカズが逃げるから、俺に回ってくるんだろ。たまには代われよ」
延大さんのあまりの言いように、ヤマトさんがさすがに腹を立ててみせた。
バシンと肩を殴られたのも気にせず、煙草をくわえながら、からからと延大さんが笑う。
「俺が吸えないのに吸うな!」とやつあたりに近いことまで言うヤマトさんに、はいはい、と従順に煙草を消した。
「俺はこれまで、かなりつきあったからな。お前も、そろそろカズに丸投げすれば」
「まだ、親のありがたみもわからないようなガキに、酷だろ」
「誰が、ガキだって」
遅れて現れた和之さんが、ヤマトさんの隣の椅子を引いた。
腰を下ろしながら、来週からよろしく、と私に微笑みかける。
来年度の部署編成があるまで、私は彼と同じ部署に入るのだ。
6人がけのテーブル席の片側に、兄弟3人が年齢順に並んだことになって、私はそれを面白く眺めた。
やっぱり、声質くらいしか似てないなあ。