副社長は溺愛御曹司

「でも俺、女の子が入ってきたら、すぐわかるんだけど。神谷はけっこう最近まで、微妙だった」

「まあ、そうかもしれないです」



相当、境界線でゆらゆらしていたから、アンテナもジャッジしかねたんだろう。

けど、最近てことは、きっと私がはっきり自覚するより先に、ヤマトさんのほうが気がついてたってことだ。

なんてこと。


恥ずかしすぎる、と思いながらふたつめになるクリームあんみつを口に運ぶと、ヤマトさんが、ほおづえをついてそれを眺めはじめた。



「顔、赤いよ」



言われて、ますます頬が熱くなるのを感じる。

何か言い返すのも癪なので、黙ってスプーンを動かしていたら、いいこと教えてあげよっか、と楽しそうな声が言った。



「神谷は、俺が圏外を気にした、珍しい例だよ」



にこっと笑う顔を、スプーンをくわえたまま見つめて、固まる。

それは。

…そこそこ前から、私を、その、そんなふうに思っていてくれたということだろうか。


顔、赤いよ、とまた言われて、当たり前です、とも言えずに、あんみつに逃げる。

反則だよね、こんなの。



「まあ、あんまり意識はしてなかったけど」

「それは…わかります」



ヤマトさんの言葉に、うなずく。

あまりに仕事上の関係が近いので、あえてそのへんは考えないようにしてたんだと思う。

そのへんはきっと、お互いさまだ。


ヤマトさんが、脚を組み直して、ため息をついた。



「こうなると、異動の件、進めといてよかったって、つくづく思うよ」

「どうやっても、やりづらいですもんね」

「だよなあ。役員のお手つき秘書なんて、もはやAVの世界だろ」



…知りません、と低く返すと、口がすべったらしいヤマトさんが、ごめん…と神妙に言う。

射程圏が云々言うくせに、これだから、ペロリといただかれるまで、女の子が油断するんだろう。

なんだか感心しつつ、私は改めて、お礼を言った。

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