副社長は溺愛御曹司
タチよくはないわね、とあきれ気味に言う久良子さんに、延大さんが、だろお、とうなずきかける。



「泣かされたらいつでも俺のとこに来なよ、神谷ちゃん」

「ハンカチよりは、役に立つわよ」



にこっと笑う彼女に、延大さんのワイシャツを汚したのは、久良子さんだったんだなあと思い、なんだか気恥ずかしくなった。



「全然知りませんでした、おふたりのこと」

「ただのお友達だもの」



にこりと笑う彼女に、久良子ちゃーん、と延大さんが泣きそうな声を上げる。

こっちはこっちで、いろいろあるらしい。



「情けないな、ちょっとは俺を見習えよ」

「すごいね兄貴、どの口で言ってんの」



うるさい、とヤマトさんが和之さんを殴ると、そうだ、お前に言われたくない、と延大さんがヤマトさんを殴った。

兄弟のいない私にとって、こういうにぎやかさは、ある意味カルチャーショックだ。


ほおづえをついて彼らを眺めている久良子さんと、目が合う。

彼女はあきれたように息をつくと、美しい眉を上げて、笑んだ。



「いくつになっても、こんなもんよ。男は」











「私も、いつの間にか、のこのこと射程圏内に入ってたわけですか」

「人聞き悪いな」



あとはおふたりで、と他の3人が先に会社に戻った後、ヤマトさんがお茶を飲みながら、楽しそうに笑った。

最後である今日は、濱中さんが、ゆとりを持って昼休みを確保してくれたのだ。


私は、つくづく自分は世間知らずなんだと感じた。

ヤマトさんが、見かけどおりの爽やか水泳部員じゃないことなんて、ホテルでの夜、気がついてもよさそうなものだったのに。



「別に俺、圏内の子全部に、好きだなんて言って回ってるわけじゃないよ」

「つまり、入ってたわけですね」



まあね、と言いながら、自分のぶんのデザートを私の前に置いた。

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