副社長は溺愛御曹司
けれどヤマトさんが、どこか落ち着かなげに目を泳がせるので、なんですか、と問うと。

彼はなぜかまた手をとめて、両手に顔をうずめてうなだれた。

その耳が、心なしか赤い。



「どうなさいましたか」

「神谷から来られると、ちょっと…」

「私から、行く?」



復唱しながら、あっと思い当たった。

この間も、なんだか変な反応だと思ったら。


私からキスをするのが、ダメなんだ。


びっくりするのか動揺するのか、テンポが狂ってしまうんだろう。

確かに、今までに私からしたのは、この2回きりだ。

別にもったいつけていたわけじゃなくて、単に私からする前に、向こうからしてくるって、だけなんだけど。


でも、なんで、そんなことくらいで。

やめてよ、そういうの…。



「なんで、お前まで赤くなるんだよ」

「おかまいなく、続けてください…」



私もすっかり調子が狂ってしまい、ほてった耳を両手で覆う。

ヤマトさんも、暑い、とこぼしながら、ワイシャツの襟元を少しくつろげた。


何やってんだろ、私たち。





「モニター用のデータベースも入れとくよ。何気にこれが、いろんな言葉が飛び交うから、参考になるかもね」

「はい、ありがとうございます」



管理部門と開発部門の、劇的なギャップを、少しでも先に埋めておこうとしてくれる配慮が、ありがたい。

そういえば、と思い出した。

久良子さんが言っていた、絶対の方法って、なんだろう。

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