副社長は溺愛御曹司
何が楽しくて、やってるんだろう。

何をモチベーションに、あんなに尽くしてくれるんだろう。


そりゃまあ、それが彼女らの仕事なわけで、それで給与が支払われるんだから、やって当然なのかもしれないけど。

でも、彼女たちは、お金のために嫌々というそぶりなんて、全然見せない。

誇らしげに、楽しげに、プロらしく、一流の秘書として、自分たちを助けてくれる。



いいのに。

ほっといてくれたら、なんでも全部、ひとりで、やるのに。



むしろこんな必死な姿、間近で見られているほうが、プレッシャーだ。

神谷の綺麗に伸びた背筋を見て、なんだか、みじめになった。


誇りを持てていないのは、自分だ。

楽しめていないのは、自分だ。


肩書きばかり立派になって、器の追いつかない自分に、秘書なんて、分不相応以外の何物でもない気がして。

彼女に助けられるたび、それにふさわしい役員であれと、勝手に重圧を感じて。


ぼんやりとたたずんでいたヤマトに気がついたのか、神谷が、慌てて席を立とうとしたのが見えた。

手を振ってそれを制すると、開発フロアでは考えられないくらい豪華な、役員室のドアを開け。

いまだに、その贅沢さに、毎朝一瞬ひるむ、自分の執務室へと入った。




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