副社長は溺愛御曹司
なんでわかるんだろう、と自分でも不思議だけれど、そもそも、誰もがわかることなんだと、昔は思っていた。

ふと兄とそんな話をした時に、他の人は、気がつかないものなんだと愕然としたのが、大学の時くらいで。

さすが、野生のサルめ、とよくわからないほめ言葉をもらったのを覚えている。


まあでも、そのにおいを感じるたびに、本人に確認をとっているわけでもないので、100%当たっているのかも、わからないけど。

たぶん、当たってるけど。



「来週の、火、水ですが。都内にお泊りになったらいかがですか?」

「ああ、そっか」



カーペットを戻しおえて、じゃあね、と役員室へ向かおうとしたら、神谷に呼びとめられた。

彼女の提案に、その手があったか、と、少し考える。


立て続けに、都内のはずれのほうで用事がある二日間で。

火曜の夜は、おそらくかなり長引き、その後に懇親会のようなつきあいもあるはずで。

翌日の別件は、やたら朝が早い。


家に帰るより、楽かも、と思いながら、でも帰らないほうが疲れるかも、と思わないでもなく。

どうしようかな、と迷っていると、それを見透かしたように、神谷がにこりと笑った。



「宿泊予約を入れておきますので、気が変わられましたら、前日までにお教えください」



失礼します、と軽く頭を下げて、秘書室のガラスの向こうへと消える。

ガラスの壁に、もっとも近い位置にあるデスクについた神谷が、年長の秘書と少し話をして、てきぱきとPCへ向かうのが見えた。


神谷は、こんな自分の秘書であることを、どう思っているんだろう。

ヤマトよりも、よっぽど役員の生活に慣れている彼女には。

就任してからこっち、いっぱいいっぱいのヤマトの心中なんて、お見通しに違いない。


そもそも、秘書って、なんなんだろう。

人に仕えて、ひたすらサポートに徹して。

会食に同席しては豪華なものを食べられたり、役員に可愛がられて、高価な贈り物をされたりするのが、世間的なイメージだけど。

この会社では、そういうことは、まずない。
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