副社長は溺愛御曹司
「ではこちらで処理させていただきます」
「ありがと。あとさ、これ、あげる」
ヤマトさんが内ポケットから出したつやのある封筒を、はいと渡してくれた。
中に、何かのチケットが2枚と、公演案内が入っている。
「俺がつきあう予定だったんだけど、お互いダメになっちゃって。秘書さんたちで、うまく使ってよ」
「わあ、ありがとうございます」
にこっと快活に笑って、ヤマトさんは駆け足に近い足取りで、部屋へと戻っていった。
中身を見ると、バレエの特別招待券だった。
案内書きを見るに、お相手が、このバレエカンパニーの会員らしい。
神崎志穂様、とある。
カンザキシホ様。
それが、ヤマトさんの彼女の名前かあ。
なになに、と久良子さんが食いついてきた。
「わ、この公演、SS席なんて、なかなか手に入らないわよ!」
「じゃあ久良子さん、どうぞ。私はよく、わからないので」
「ねえ、暁(あきら)、こういうの好きじゃなかったっけ、一緒に行こうよ」
暁さんは、CEOと取締役以外の役員の管理をしている秘書だ。
具体的には、専務と常務と、必要があれば執行役員たち、となるんだけど、この会社では、事業部長クラスはみんな執行役員なので。
かなり物理的に広い範囲を受け持つことになり、そのため秘書室にいることが少ない。
3つ、ゆるやかな弧を描いて横一列に並べられたデスクの、一列うしろに彼女のデスクはある。
担当範囲が広いので、デスクが大きいのだ。
キーボードを叩いていた手をとめて、日本人形のような漆黒の髪と陶器みたいな肌が、こちらを見た。