副社長は溺愛御曹司
それよりさ、とヤマトさんが延大さんの手元の封筒を指さす。



「信用状態が悪化した時の条項、少し露骨すぎる気がして。全体的に、ちょっと上からすぎないか」

「言いたいことはよくわかるけど、杉さんの意向なんだよ、これ」



ヤマトさんが、少し眉をひそめて腕を組んだ。



「そこ、ずっと温度差があるんだよなあ。もう一度、俺が話してみる。まだ間に合うだろ?」

「実動は年明けだし、まあ大丈夫だ」

「ごめん。少し、もたつかせるかも」



慌てるよりいいから、気にするな、と延大さんが笑うのに、ほっとしたようにヤマトさんも微笑んだ。

そこに、役員の外出に同行していた、久良子さんと和華さんが戻ってきた。

各々の部屋に戻るCEOと社長を、気をつけの姿勢で見送ってから、ヤマトさんが声をかける。



「和華さん、今日、杉さんに30分くらい、時間もらえないかな」

「午後深めでしたら。ですがヤマトさん、外出されるんでしょう?」



うーん、とヤマトさんが渋い声を出す。



「来週にするしか、ないかあ」

「神谷を、よろしくお願いしますね。出発までには、さらに可愛くしておきますから」



和華さんは自身の髪が短いぶん、人の髪をいじるのが好きらしく、ヘアアレンジをしてくれることになっていた。

久良子さんが親しげに、延大さんの腕を手帳で叩く。



「若い子にちょっかい出しにいらしたの?」

「そうなんだよ、叱ってやってよ、このオヤジ」

「3つしか違わないのに、その扱いはないだろ」

「あら、それしか違いませんでしたの」



久良子さんが眉を上げてふたりを見る。

子供っぽくて二十代にしか見えないヤマトさんと、オヤジと言われた延大さん両方への巧みな嫌みに、男性ふたりが押し黙り。

秘書だけが全員、笑った。




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