副社長は溺愛御曹司

「今度、また同期飲みしようって。すずも来るでしょ」

「行く行く」



楽しみだ。

10名足らずの同期は、入社3年目となる今でも、みんな仲がいい。

私を除いて全員が開発部門に配属されていて、プランナーやプログラマの他に、CGやサウンドクリエイターもいる。


教育ソフトメーカーとして立ちあがったこの会社は、今ではビジネスツールやネットワークサービスにも手を広げていて、私はその分野でパイオニアともいえる教育ソフトに携わりたくて、志望したのだった。

けれどその部門は縮小傾向にあり、たまたま秘書が足りなかったこともあり、あっさりこういう結果になってしまった。



「何ため息ついてるの」



紀子に言われ、ついていたことに気づいた。



「異動希望、出し続けてるんでしょ?」

「まあね」



半期ごとに出すことのできる希望は、毎回上長である秘書課長に提出している。

しかし、やってみてわかったことに、意外と私は秘書としての適性があるらしく、「もう少しいて」と言われ続けて二年半が経過してしまった。


秘書の仕事が嫌なわけじゃない。

むしろ楽しい。

やるからにはと思って、秘書技能検定の準1級まで取得してしまったくらいだ。

私だけの仕事という、特権的な面白さや充足感もある。


けど。

志望動機だった、企画への未練を、そう簡単に断ち切れるわけもない。

< 6 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop