副社長は溺愛御曹司
「今度、また同期飲みしようって。すずも来るでしょ」
「行く行く」
楽しみだ。
10名足らずの同期は、入社3年目となる今でも、みんな仲がいい。
私を除いて全員が開発部門に配属されていて、プランナーやプログラマの他に、CGやサウンドクリエイターもいる。
教育ソフトメーカーとして立ちあがったこの会社は、今ではビジネスツールやネットワークサービスにも手を広げていて、私はその分野でパイオニアともいえる教育ソフトに携わりたくて、志望したのだった。
けれどその部門は縮小傾向にあり、たまたま秘書が足りなかったこともあり、あっさりこういう結果になってしまった。
「何ため息ついてるの」
紀子に言われ、ついていたことに気づいた。
「異動希望、出し続けてるんでしょ?」
「まあね」
半期ごとに出すことのできる希望は、毎回上長である秘書課長に提出している。
しかし、やってみてわかったことに、意外と私は秘書としての適性があるらしく、「もう少しいて」と言われ続けて二年半が経過してしまった。
秘書の仕事が嫌なわけじゃない。
むしろ楽しい。
やるからにはと思って、秘書技能検定の準1級まで取得してしまったくらいだ。
私だけの仕事という、特権的な面白さや充足感もある。
けど。
志望動機だった、企画への未練を、そう簡単に断ち切れるわけもない。