副社長は溺愛御曹司
ごめんね、とヤマトさんが背もたれに背中を預けてため息をついた。



「俺、目が肥えちゃったのかなあ」



確かに、久良子さんたちを基準にしていては、これという人を見つけるのは難しいだろう。

他社の秘書さんを見ていればわかるけれど、彼女たちは、秘書の中でもハイレベルだ。

ヤマトさんが、私を見あげて、困ったように笑う。





「なかなか、神谷みたいな人に、出会えないんだよね」





その言葉は、矢のように。

喜びと痛みを、同時に運んで。

私の心に、突き刺さった。


小さなトレイを握りしめて、妙なことを口走らないようにするのが精一杯だった。



ヤマトさん。

私、あなたのそばで働きたいです。


でも、開発の夢も捨てられない。


どうしたらいいんだろう。

私、何が一番ほしいんだろう。

どうして、どっちも一度に手に入れることができないんだろう。



「なるべく急ぐからね。もう少し、待ってて」



申し訳なさそうに言うヤマトさんに、私は、なんと答えたらいいのかわからなかった。


だって。


誰か、他の人が、ここに立つことになるなんて。

こうやって毎日、ヤマトさんのことを考えて補佐するのが、私以外の誰かになるなんて。

ヤマトさんが、何かあるたびに声をかけるのが、私じゃなくなるなんて。


そんなの。

考えられない。



考えたくない。




< 68 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop