副社長は溺愛御曹司
珍しいこともあるもんだ。
祐也が外に呼び出すなんて。
指定された、お互いの家の中間くらいの場所にある、昔よく行ったダイニングバーを訪れた。
明日の日曜日は、秘書検定の筆記試験だ。
今さら、更なる資格をとって、何になるんだっていう気もするけれど。
ここまで来たからには、ちゃんと受けたい。
恵まれていることに、私には優秀な先輩が3人もいる。
彼女たちが惜しみなく職務知識を与えてくれるおかげで、外部の講座などを受ける必要もなく、こうして試験に臨めるのだ。
「どうしたの、いきなり」
「別に、ビールでいい?」
うん、と言いながらストールをほどき、先に来ていた祐也の前に座る。
このバーは、すべての席がシェードやタペストリーなどで仕切られていて、軽い個室になっている。
ソファ席やちゃぶ台の席などもあって、その日によって気分を変えられる。
学生の頃から、私たちのお気に入りだった。
「ここ、まだあったんだね」
「俺、今でも、たまに来るよ」
…誰とよ。
どう考えたって、ここは男同士で来るようなお店ではない。
そしてここから祐也の家へは電車で一本で、非常に行きやすい。
やっぱり私と会っていない時は、そういうことをしてたんだなあ、とため息が出た。
祐也はそんなことには気づいていない様子で、メニューを見ながらおしぼりで手を拭いている。
ここのところ、仕事帰りにふらっと来ることが続いた祐也の、私服姿を見るのは久々だ。
デニムにカットソーという気取らない服を、不思議なほど着こなせる男だった。