副社長は溺愛御曹司
「この時、俺、ソフト事業部持ってたから、この企画、見てたんだよ。よく覚えてる」
まさか神谷だとは思わなかった、とヤマトさんが笑う。
「ちょっとしたSNSの発想だよな。当時はまだ日本でまったく普及してなかったのに、たいしたもんだよ」
「神谷さんは文学部だけど、何か大学で、こういう勉強をした?」
「いえ、情報系の学部の授業を少しとっていて。そこで、そんな事例を耳にしたので」
思わず声が小さくなった。
痛いほどの若さに満ちた頃に書いた偉そうな企画書を今ごろ持ち出されて、しかもヤマトさんまでそれを見ていたなんて。
なんというか、いたたまれない。
「ネットワークビジネスのセンスって、独特だから。神谷なら、それ持ってそうだなと思って」
「タイミングも、ちょうどいいしね。そちらでも活躍してくれると、人事部も鼻が高い」
嬉しいよりも、恐縮と恥ずかしさで、ありがとうございます、とだけなんとか言った。
「でもこれ、お題は“ソフトウェアの企画”だろ。こういう仕組みを出してきたの、確かひとりだけだった。なんでこれにしたの」
「こういうのも、言ってみればソフトウェアかと思って…」
パッケージソフトなんて、しょせん私が考えても、誰かと重複したり既存の商品に似たりするだけだろう。
だったらと、自分が働くうえで、こういう仕組みがあったらいいなと思うものを書いて出したのだ。
そう説明すると、机に片ひじをついたヤマトさんが、さもおかしそうに声をあげて笑った。
「神谷って、そういう変な度胸のよさ、あるよなあ」
「これと近い発想は、実は当時もう、上層部では持ちあがっていてね。それも、ようやく実現するんだ」
木戸さんの言葉を受けて、ヤマトさんが笑みを残したまま、うなずきながら続ける。
「今使ってるグループウェアに、開発環境を乗せるんだ。すべてのタイトルをオープンにできるわけじゃ、ないけど」
「そんなことが、可能なんですか」
「今回の提携で、インフラも相当強化されるからね。元からレベルの高い環境だったけど、さらに」