副社長は溺愛御曹司
こういう話を聞くと、この時代、エンジニアとプログラマがいればなんでも実現できるんじゃないかって気になってくる。

木戸さんが、少し神経質そうな細身の身体を椅子の背に預けて、ため息をついた。



「うちは、パッケージの技術はありますが、サーバはまだ開拓中ですからね」

「でしょ。ほしいよねえ、あの会社」

「ですが、うちとは相当人事制度が違い、統合した場合は、すりあわせにかなり苦労しそうですよ」

「苦労してよ、そのくらい。オープンソース化だってさあ、給与体系との兼ねあいで実現に手間どったんだろ」



木戸さんて、ヤマトさんより年上のはずなんだけど、変なふうに仲いいなあ、このふたり。

そもそもさ、とヤマトさんがほおづえをついて、じろりと木戸さんを見る。



「俺、この新人はいいって推したけどさ。秘書にしろなんて言ってないよ。かわいそうに」

「仕方ないでしょう、当時の秘書が急にやめちゃったんだから。さんざん彼女に世話になっといて、偉そうに」



面白がるように、なかば本気で不平を漏らすヤマトさんに。

当時から人事部だった木戸さんは困り顔をしつつも、そこは譲れないとヤマトさんをにらんだ。



「あとは、新しい人を見つけるだけだね」

「少しは審査基準を落としてくださいよ。あれじゃいつまでたっても見つかりません」

「俺、そんなに厳しくしてるつもり、ないんだけど」



ふたりの会話を、控えめに笑いつつ聞いて。


ああそうか、私の向かう道は。

もう、決まりはじめてるんだな、と思った。



考えないと、なんて。

言ってる段階じゃ、ないのかも。




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