副社長は溺愛御曹司
耳鳴りみたい。

大通りを走る、車の音が、ざあざあとノイズのように聞こえてくる。

それともこれは、私の体内の音だろうか。


路地にあった自動販売機で、ヤマトさんが飲み物を2本買った。

1本を開けて、手渡してくれる。

コーヒーのいい香りがただよった。


私は、何を言ったらいいのかわからず。

ヤマトさんも、特に何も口にしてはくれず。


ひと息に缶を空けたヤマトさんは、それに吸殻を入れると、ホテルに入った。



フロントで、二部屋分のカードキーを受けとる。

一枚をヤマトさんに渡しながら、この人はついに、誰かを選んだんだと思った。

自分のそばに置いておきたい、誰かを。



新幹線と同じく、部屋も全員、あえてばらばらにしてある。

利便性を考えて、フロアは同じだけれど、間には必ずひと部屋以上を置いている。

私は、ヤマトさんが着替えるのを待って、ワイシャツとスーツをフロントに持っていこうと思い、申し出た。

素直に、ありがと、と言って、ヤマトさんが、自室のドアノブにカードキーを挿す。


彼は、なぜかふとその手をとめると。

ドアの前で着替えを待つつもりで、横に立っていた私に、微笑みかけた。





「さみしいね、離れちゃうの」





私を、感情の波が襲った。


さみしいとか、そんなものじゃないです。

身体が引き裂かれるみたいです。


ただ、離れるだけでも、耐えられないのに。

私のいた場所には、別の誰かが座る。



ヤマトさん、私。



私。



私、という揺れた声が、自分のものだと気がつくのに、少しかかった。

続く、言葉も。





ヤマトさんが、好きです。







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