副社長は溺愛御曹司
小学校の、中学年の頃。
近所に、ちょっと気の弱い、でも人のいい年下の男の子がいて。
ある日、上級生の女子が、学校帰りにその子をからかっているのを目撃したことがあった。
執拗なそのからかいを、嫌だなと思って見ていたら。
嫌がらせ、やめなさいよ。
うわっ、誰、そんなこと言うの、勇気ある、と周囲を見回して、自分の声だったことを知った。
上級生は、じろじろと私を見て。
卒業するまで、会うたび私に嫌味を言った。
優柔不断で、引っこみ思案のくせに。
なんでか、唐突に、思ったことが口から出てしまう時がある。
何も、今じゃなくていいのに。
ヤマトさんの、ぽかんと私を見返す顔を見あげながら、そう思った。
ふいにエレベーターが鳴り、聞き覚えのある声が響いてきて、ふたりではっと目を見あわせた。
杉さんと和華さんだ。
ヤマトさんが、さっとノブからカードキーを抜くと、ドアを押し開ける。
とっさに、そこに滑りこんだ。
廊下を、ふたりが通りすぎる気配がする。
彼らの部屋は、このずっと先だ。
はちあわせずに済んだことに、ほっと胸をなでおろして、何も私まで部屋に入ることはなかったんじゃないかと我に返った。
別に、業務で立ち話くらい、するだろうに。
やましかっただけに、あせったんだ。
もう行きますね、というつもりで、ヤマトさんを見あげると。
「俺も、神谷のこと、好きだよ」
左右を、クローゼットとバスルームに挟まれた、狭いドア付近で。
私は、間近にあるヤマトさんの顔を呆然と見つめた。