春秋恋語り


『とにかく、もう一度会ってちょうだい』


『でも』


『深雪さんの従姉妹さんも一緒だったんですってね。脩平君の中学の後輩だって聞いたわよ。
その従姉妹さんが、田代さんは優秀で間違いない人ですって、深雪さんのお父さんに勧めてくれたらしいの。ありがたいわね』



どうしてここで大杉が出てくるんだ?

深雪さんのお父さんに勧めたって、どういうことだよ、そんなの頼んだ覚えはないぞ。

違う、違う、僕が会いたいのは深雪さんじゃない、大杉だ。

付き添いの大杉の方がいいって言っただろう、彼女、信じてなかったのか?

あぁ、もぅ、なんだよ!

僕の心の奥の叫びなど届くはずもなく、おばさんは自分の都合の良い解釈で、どんどん話を進めていく。



『何事も最初が肝心ですからね、チャンスはすばやくつかまなくちゃ』


『チャンスはこれからいくらでもありますから』


『そのチャンスが巡ってきたんじゃないの。脩平君』


『なんですか……』


『今日の夕方あいてる? 私の方でお席を用意するから、深雪さんに会ってらっしゃい』


『そんな、今日だなんて急に無理です』



冗談じゃない、今夜は大杉を誘ったんだ、まだ返事はないが、万が一のチャンスでも彼女に会える機会を逃すものか。



『それじゃ、いつならいいの? 次の土曜日か日曜日はどう? 脩平君お休みでしょう?』


『えっと、日曜日なら……彼女と二人で会うんですか』


『そりゃぁそうでしょう。どうして?』


『いや、彼女、すごく控えめだったから、誰かがまた付き添うのかと思って』


『さぁ、どうかしら。そんなことより、日曜日、空けといてね。先方さんには私から話しておくわ』



いいわね、日曜日忘れないでねと、おばさんは何度も僕に念を押した。

おばさんの話を聞き流しながら、もしかしたら、大杉が深雪さんを送って来るのではないかと考えた。

深雪さんの付き添いで大杉がくるかもしれないと思い始めると、本当にそうなるような気がして、僕は 「わかりました……」 としぶしぶ承知したような声で返事をしながらも、高まる期待にほくそ笑んだ。


なぜこんなにも大杉に会いたいのか、これでは、まるで恋焦がれた相手みたいじゃないか。

会いたくて、会いたくて、いっときでも早くと気持ちが急いてしまうのだ。

今日でなくても、深雪さんを口実にしなくても、彼女も地元にいるのだからいつだって会おうと思えば会えるのに、僕は何を焦っているんだろう。

心の奥でくすぶっている想いが、気持ちを突き動かし行動へと駆り立てるのだ。

くすぶっている想いがどんなものなのか、なんとなくはわかっているものの、いまはまだ認めることに抵抗があった。

とにかく、おばさんの顔を立てて深雪さんにもう一度だけ会おう。

僕のどこを見て気に入ってくれたのかわからないが、もしかしたら周囲が強引に勧めているってこと考えられる。

こうなっては遠慮なんてしてはいられない。

女性側から断ってもらったほうが体裁がいい、なんてことを思うのはやめよう。

彼女にちゃんと話をして、僕には見合いを受ける気はないと伝えよう。


けれど、ハッキリと口にするのは失礼だろうから、そうだな……

僕は転勤も多くて、この先また海外勤務も考えられるし、こちらにいつまでいられるかわからない。

どこに転勤になるのかわからない、初めての土地での暮らしは、深雪さんには大きな負担ではないか……

うん、これなら彼女も不安になって 「やめます」 と言い出すに違いない。

何事にも理由付けが必要な僕は、次回の段取りを頭の中で組み立てた。


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