春秋恋語り
「ユキちゃんは、ちょっと強引なくらいの男性がいいと思ったんです。グイグイ引っ張ってくれる人なら、あの子を支えてくれるかなって」
「僕は強引かなぁ」
「あっ、しっかりしてるって意味です」
大きく手を振って慌てて訂正する大杉が続けた言葉に、彼女の真意があるような気がした。
「おじさんとおばさんには、私、本当にお世話になったから、ユキちゃんには幸せになって欲しくて……先輩なら間違いないと思ったんです」
「僕をかってくれるのは嬉しいけど、僕にその気がないんじゃどうしようもないと思うけどね」
「やっぱりダメですか」
「うん……大杉だったらOKだったけど」
「えっ、やだ、冗談ばっかり。からかわないでくださいよ。あはは……」
ちらっと彼女の目を見ながら、僕は本音を告げたのに、僕の本気は笑いで流されてしまった。
まぁいいか、大杉との付き合いは始まったばかりだ、また食事に誘ってくださいって言ってくれたんだ、付き合ううちに僕を知ってもらえばいい。
「大杉、酒は? 飲めるの」
「ふふっ、結構イケる口です」
「へぇ、そうなんだ。何が好き? ワインとかカクテル系? まさか、焼酎だったりする?」
「ワインもカクテルも好きですけど……って、気取っても仕方ないですね。日本酒も焼酎もイケます」
「それは頼もしい。今度はあのビルの店に行ってみないか。焼酎が相当数そろってるって話だよ」
「飲み会、お付き合いさせていただきます」
気持ちのいい返事をしながら、大杉はおおげさに深々と頭を下げた。
こうして次に会う予定が決まり、翌々日には飲み会が実行された。
彼女のいう ”イケる口” は本当だった。
アルコールにも強いのだろうが、どんどん飲み干すタイプではなく、味わいながら香りを楽しみ、グラスを傾ける時間を楽しみ会話も楽しむ。
となりの席の人にも気軽に話しかけ、銘柄の話題で盛り上がったりもする。
静かな印象のあった大杉の意外な一面に触れたと思ったが、考えてみると、母親を亡くしてから従姉妹の家で暮らし、その後実家に頼ることもなく一人で頑張ってきたんだ。
大杉の人への気遣いは、彼女の環境で培われてきたのかもしれない。
次は私が案内します、気取ってワインバーなんてどうですかと嬉しいことを言ってくれる。
その週の金曜日、僕らはまた一緒に飲むことになった。