トールサイズ女子の恋【改稿】
「進行は副編集長に任すし、家にいてもメールや電話は出れるから、何かあったら直ぐに連絡して。じゃあ、頼むね」
「………分かりました、何かあったら連絡します」

 幸雄さんは荷造りを終えてドアに向かってくるんだけど、どうしよう…こっちにくる!離れなきゃって思ってたら、ドアが開いて幸雄さんと鉢合わせになっちゃった。

「あっ、あの…」
「……」

 私は声をなんとか出したけれど、幸雄さんは視線を逸らして無言で通り過ぎる。

 振り向いて追い掛けたいのに足が固まって出来ない……、追い掛けて口元の怪我のことを聞きたいけど、でも追い掛けるのが出来なかった一番の原因は、私の横を無言で通り過ぎたことにショックを受けたからで足が動かないよ……。

 廊下には、幸雄さんが階段を使って降りる足音だけが聞こえた。

 私は無言で通り過ぎられたショックを受けてほんの少し意識がぼんやりとしたけれど、手に持っている用紙を渡しにいかなくちゃと意識を切り替える。

 お昼休み時間になったら幸雄さんに電話をかけてみようと決めて、もう一度ICカードを使ってドアを開けて中に入って荒木編集長のデスクにいくと、やはり姿がない。

「すいません、荒木編集長に合同説明会のパンフレットに記載する用紙をお持ちしたんですが、もし来られましたら渡して頂けますか?」
「はい、渡しますね」
「おい。お前に聞きたいことがあるから、ちょっとこい!」
「えっ?」

 私はスポーツ部の人に郵便物を託したら背後から声をかけられたので振り向くと、姫川編集長が不機嫌なオーラを出しながら立っていて、私はグイッと左腕を掴まれたまま2人で編集部を出て行った。

「姫川編集長、痛いです」
「……」

 かなり強く左腕を掴まれているので痛くて顔をしかめるけれど、姫川編集長は答えることなくずんずんと廊下の端まで歩き、端まで来たら私の背中を壁に押し付けて片手をバンっと私の顔の真横についた。

「ひゃっ」

 私は思わず声が上ずって姫川編集長をそ~っと見上げると、私を見下ろしている姫川編集長の様はまるで凶暴な動物で、私はそれに狙われた小動物のような感じだ。
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