トールサイズ女子の恋
「幸雄さん、ありがとうございます」
「どう致しまして、さっ行こうか」
「は―…、…っくしゅ」

 私たちは靴屋を出てカレー屋さんに向かうと冷たい風が吹くから、マフラーをしてこなかったのは失敗したかもと鼻をすする。

「美空、こっち」

 すると幸雄さんがスペード街の細道に連れて入り、周りに誰もいないことを確認するとマフラーをほどきはじめた。

「ちょっとだけ屈められるかな?」
「こうですか?」

 私は少しかがんでみると幸雄さんが私の首にマフラーを巻いて、寒かった首元がマフラーの毛糸で温められていく。

「幸雄さん、ありがと―…」

 "う"の言葉は唇が重なって封じられて小さなリップ音を出して唇が離れると、幸雄さんはしてやったりとにんまりしながら私の唇を親指でなぞる。

「身長が低くても、こうしたキスのやり方があるんだよ?」
「…っ!!」

 確かに私の身長が低かったり幸雄さんと同じような身長だったら女性が屈むなんてないし、トールサイズ女子の私と身長の低い幸雄さんが出来るシチュエーションであって―…、幸雄さんのこういうところ敵わないよ……。

「ほら、カレー屋に行くんでしょ?混雑しないうちに行こう?」
「……はい!」

 私が見下ろして幸雄さんが見上げる構図だけれど、幸雄さんが私の身長コンプレックスを少しずつ溶かしてくれているから、有名なアニメのように将来時間を超えることが出来る機械があったら身長コンプレックスに悩んでいた自分に教えてあげたいな。

 トールサイズ女子の私の前に素敵な人が現れるんだよって、隣に並んで歩ける人がちゃんと現れるんだよって、悩んで泣いてたり恋愛に諦めていたあの頃の自分に伝えたい。

 私は…、私は私の身長を気にしないで隣に並んでくれる理想の人に出会えて本当に良かった…、トールサイズ女子で良かったかもと思える人に出会えて本当に良かった。


 "並んで歩こう、一緒に"



 終わり 【2015/8/25 改稿了】
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