トールサイズ女子の恋【改稿】
「じゃあ、俺は編集部に戻るね」

 水瀬編集長は在庫室から出ていき、私は水瀬編集長に触られた前髪を指で弄った。

 なんとなくだけど前髪には水瀬編集長に触れられた感覚がまだ残っていて、胸の高鳴りも続いてる。

「まだ仕事中だって」

 私は気持ちを切り替えるように、顔をふるふると振る。

 在庫室を出て総務課に戻ると自分の席に座り、パソコンの電源を入れて備品を発注するためのファイルを開いて、数を間違えちゃ駄目だから気をつけてキーボードを打ち始めた。

「星野さん、発注が終わったらこっちの書類をまとめるのを手伝って貰える?」
「分かりました」

 私の向かいに座る女子社員も、忙しそうにキーボードを叩いてる。

 総務課は少人数だし抱えてる仕事も多いので皆でサポートしながら業務をこなすとあっという間に定時になり、私も帰り支度をして早々に総務課を出る。

 小腹も空いてるし、久しぶりに外でご飯を食べようかと考えた。

 女の一人暮らしなんて、こういうもんだよね。

 付き合っている人がいれば仕事終わりの楽しみとしてデートが出来そうだけど、そうじゃなければ会社と部屋まで往復する毎日だから、1人でお店で食べてもへっちゃらで、ここ数年はお一人様スキルが向上していっている。

「どこかカフェに入って、適当に食べようかな」

 私は四つ葉出版社を出て藍山駅に向かって歩いてると、向かいから水瀬編集長が手にコンビニの袋を持ちながら歩いていた。

「もう上がりなんだ」
「水瀬編集長、お疲れ様です。特に残業はなくて…、水瀬編集長はまだ仕事ですよね?」
「ギリギリまでやらなくちゃいけないからね、外で食べる時間が無い時はコンビニで済ますかな。それじゃ、気をつけて帰ってね」
「はい、お先に失礼します」

 私にコンビニの袋を見せるように水瀬編集長は掲げて四つ葉出版社に向かい、私は藍山駅へ向かっていった。
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