トールサイズ女子の恋【改稿】
 そういう不安なことは、結構的中するんだよね。

 四つ葉出版社が見えてきたから、あぁ楽しい時間は終わっちゃうんだと寂しくなるなぁと思いながら歩いていたら、四つ葉出版社の玄関前に座り込んでいるタウン情報部の女性とその傍に立っている姫川編集長の姿があったので、どうしたのかなと駆け寄ってみた。

 タウン情報部の女性の表情は午前中に見た時よりも血の気が引いていて、あの時総務課から薬を持ってくれば良かったよね。

「九条、真っ青じゃないか!」
「水瀬編集長……、すいません。大丈夫かと思ってたんですけど…」
「無理すんなって言っただろ?このまま病院に行け」
「はい…」

 姫川編集長は苛々としながら九条さんという女性に命令をするんだけど、姫川編集長ってちょっとというか冷たいな。

「熱は無い?」
「…っ…」

 水瀬編集長が左手で九条さんのオデコに触ると、私は声には出さないで、というより出せなかった。

 何故か目の前で水瀬編集長が他の女性に触れるのを見て、針に刺されたようにチクンと胸が痛む。

 するとほんの一瞬だけ私と姫川編集長の視線が合うと、姫川編集長は右手で水瀬編集長の後頭部を思いっきりバシッと叩いた。

「痛っ!いきなり叩くなよ」
「意味は、ない」
「何それ?途中で倒れたら危ないからタクシーを呼ぶけど、姫川は付き添う?」

 水瀬編集長は九条さんのオデコに当てていた左手を引っ込めると、ジャケットの内側からスマホを取り出した。

「今日が締め切りだから、悪いが付き添えない」
「分かった。九条は1人で平気?」
「1人で行けます」

 水瀬編集長がスマホでタクシーを呼ぶと、数分後に四つ葉出版社の前にタクシーが停まって、九条さんが後部座席に乗りこんだ。

 そして窓を開けてもらい、姫川編集長はドアの上の部分に手を置いて九条さんに話しかける。

「アイツには俺から連絡しておくから、診察が終わったらそのまま帰って休め」
「はい…、締め切り当日にすいません」

 タクシーは動き出し、街中に消えていった。
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