トールサイズ女子の恋【改稿】
「姫川、手伝うことがあったら言って。こっちの締め切りはまだ余裕だし、俺なら手伝えるから」
「今のところ無い。そんなことより、先ずは気にすることがあるんじゃねえの?」
「あっ…、ごめん」
「いえ…」

 姫川編集長が顎をクイッと使って私を指すと、水瀬編集長が頭をかきながら申し訳なさそうに謝ってくる。

 そんな風に謝られてしまうと、余計に気まずいよ。

「俺は先に戻る」
「……」
「……」

 姫川編集長はモジャモジャの髪の毛をかきながらすたすたと四つ葉出版社の中に入っていき、残された私たちは何をどう言えばいいか分からなくて沈黙に包まれる。

「えっと、その、私は先に総務課に戻りますね。ランチをご馳走していただいて、ありがとうございました」
「うん…」

 私は早足で四つ葉出版社に戻って席に座り、パソコンを起動させる。

 仕事をしないといけないのに頭の中がぐちゃぐちゃしていて、集中できないよ。

 水瀬編集長の行動1つ1つは誰にでもしているものであって、髪に埃がついていても、スマホが見つかって良かったと頭をぽんぽんと叩いたことも、九条さんのオデコに触れたのだって心配したからであって。

 "誰にでも優しい人"、それが水瀬編集長なんだ。

 私を四つ葉出版社の一社員として接しているだけであって、ランチだって特に意味は持ってないと思う。

 たまたま外でご飯を食べたかっただけであって、私なんてついでに違いない。

 うん、そうだよと、私はそう言い聞かせてパソコンのキーボードを打ち込むけど、指の動きはランチ前よりも鈍くて音も小さく響いた。
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