トールサイズ女子の恋
 そして案の定、木村さんのお手伝いは遅くまで続いていて、他の人たちは定時と同時に帰り、課長は他部署の人に呼ばれて接待に行ったので、総務課にいるのは私と木村さんだけ。

「こんな時間まで手伝わせちゃってごめんね。予定とかあった?」
「特に無いので大丈夫です。2人でやれば早く終わりますよ」

 このバインダー1冊分を終えれば帰れるかなとフッと気を抜いたら、お腹の音が盛大に経理課に響くように鳴ってしまった。

 1人きりならお腹が鳴ってもへっちゃらだけど、今は木村さんもいるし…とチラッと木村さんの方を見ると、木村さんは手で口元を押さえてククッと笑っていて男性と2人きりの時にお腹を鳴らすなんて、女性として失格というか…。

「長く付き合わせちゃったし、この後はご飯を奢るよ」
「でも…」

 ご飯を目当てにして残業をした訳でもないから断んなくちゃと思ったら、またお腹の音が鳴って顔がカアッと熱くなり、ハハッと笑うしかない。

「軽めに食べれるお店があるから、そこに連れていくよ。またお腹がなっちゃうといけないし」
「……分かりました」

 木村さんのからかいに耐えつつパソコンの入力を続けてたら一瞬だけ水瀬編集長の顔が浮かび、顔を左右にふるふると振るい、私の分はこのページを入力すれば終わりで、マウスを使って保存ボタンを押す。

「木村さん、このバインダーの資料の入力は終わりました」
「僕も終わったから、ご飯に行こうか」
「はい」

 私たちはパソコンの電源を落として帰り支度をしていると総務課のドアがノックされ、総務課に入ってきたのは水瀬編集長だった。

「あれ、2人は残業なの?」
「木村さんのお手伝いをしていて、こんな時間になっただけです」
「そう…、会議室の鍵を返しにきたんだけど課長は?」
「課長は接待で先に帰りましたので、僕が鍵を預かります」
「分かった」

 水瀬編集長はピリピリとしたオーラを出しながら木村さんをキッと睨み、ポケットから鍵を取り出して木村さんに渡すと総務課を出ていき、木村さんは鍵を課長の引き出しを開けて中に鍵を入れて閉めた。

「なんだか水瀬編集長、機嫌が悪そうだったね」
「う〜ん、仕事が忙しいんじゃないですかね」

 口ではそう言ったけど、内心は昨日の水瀬編集長との会話を思い出していた。

『木村と仲が良いよね』
『木村さんとは、仕事を教えてもらっているだけです』

 木村さんには同僚としてみてるし、正直なことを言ったんだからあんな表情をされてもな。

 それに水瀬編集長だって彼女いるのに私を食事に誘ったり手を握ったり、そっちの方が意味不明だよ…と心の中で突っ込みをする。
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