キスマーク



声が聞きたい。


誰もいない給湯室でそっと瞳を閉じれば、ヒロの声が聞こえてくる。


甘え上手な彼の声、が。


それと同時に幾つもの熱い夜の情事を思い出せば、身体の芯から火照りだすものまでも感じる。



だから―…


早くヒロじゃない他の男に抱かれて、身体中に染み付いた彼の記憶を消してしまいたい。



大丈夫。今ならきっと戻れる。


“好きだよ”の言葉も“愛している”の言葉も、彼の口から真剣に聞いていない今なら思う以上に楽に戻れる筈。



嫌な別れかたをした昔の男なんかじゃなくて、もっと新しい男性とならきっと、私の中から彼の存在を容易く消してくれるかもしれない。



突然に舞い込んだこの見合い話が、ヒロと過ごすアバンチュールな一時から抜け出すきっかけになることを願う。



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