キスマーク
そして―…
19時半。そんな打算的な気持ちで私は、
「乾杯」
と、グラスを傾けて久瀬さんと乾杯をする。場所は駅近くのイタリアン。勿論、“高級”と分類されるイタリアンのお店。
「今夜も急な食事になってしまいましたね」
ワインに口をつけた後、申し訳無さそうな顔で久瀬さんが言う。
「いえ。仕事終わりにこんな美味しいワインが呑めて嬉しいです」
「ですね。僕は一人だと缶ビールばかり空けてしまうので、こんな風に詩織さんが付き合ってくれてありがたいです」
にこりと微笑む久瀬さん。
黒髪をきちんとセットしていて、オリーブグレーの高級感漂うスーツがとても似合う。
雰囲気も服装も話し方も―…大人の男ってこういう人を言うのだろうな、って思うくらい、私が定義する大人の男性像まんまだ。