キスマーク
「こちらのお店にはよく来られるんですか?」
「頻繁にという訳ではないんですが、家族と何度か。もしかして詩織さんもだったり?」
「いえ。気になってはいたんですけど、なかなか来る機会もなくて」
「なら良かった。詩織さんの好みを聞かずに勝手に決めてしまったので―…次は、ちゃんと詩織さんにリクエストを聞いて決めますね」
“次は”という久瀬さんの言葉。
「わかりました」
と、ワイングラスを片手に笑顔を作る。
前菜、カルパッチョ、ムース―…
運ばれている料理をどれもゆっくりと味わう。流れていく穏やかな時間。