キスマーク
本当に一瞬の事。
胸に手を当てれば、ドクドクと何時もよりもずっと早く波打つ鼓動を感じる。
とにかく早く、この場所から離れたい。
ここを離れて、そして、それからは?
それからは―…
と、そこまで考えた瞬間だった。
いきなり私の耳に飛び込んできた、ザァァァーッという激しい音。
ハッとして顔を上げると、夜の街を濡らす雨、雨、雨―…
「雨……」
と、呟くと同時に、何時の間にかホテルの外まで出てきていたのだと気付く。
それだけ夢中に、一哉と入った部屋から出てきたのだ、とも―…
どうして?
何が嫌だったの?
私には特定の恋人なんていないし、一哉も彼女はいれども既婚者というわけでもない。
それに彼は何度も何度も肌を重ねた相手。
今夜また一回だけ回数が増えるということだけで、大した問題じゃない。