冷たいアナタの愛し方
密偵からの報告を満足に聞かないまま王の間を飛び出したジェラールは、金の髪をがりがりかき上げながら苛立ちを募らせた。


「あいつら…!ローレンを攻めるとか本気で言ってんのか?!」


「こ、こらジェラール、抑えて抑えて」


先程まで冷静沈着な姿を見せていたジェラールは本性を剥き出しにして吠えた。

王の器として誰からも認められる存在にならなければならない――父王からそう言い聞かされて育ったジェラールは、ルーサー以外には砕けた話し方をしない。

それほどまでに動揺しているジェラールは、自室に着くなり剣をベッドに放り投げるとネクタイを外して白いシャツを脱ぎ捨てた。

素早くドアを閉めたルーサーは、遠征用の銀色の鎧を身につけるジェラールの準備を手伝い、眉を潜めた。


「ジェラール…覚えてるかい?ローレンには…」


「…オリビアが居る。あれから会ってないが、あいつ…まだあそこで暮らしているとしたら…」


「真っ先に貴族や王族たちから殺される。オリビアはお嬢様だったから盾つくようなことがあったら…」


「なんとかしてオリビアだけは保護する。お前も手伝え」


「兄上たちは大金を積んで蛮族を味方につけた。ローレンは上空からも地上からも攻められることになる。早く行こう!」


慌ただしく出兵の準備が整えられ、夕暮れ前には人口5万に満たないローレンに対して蛮族を含め述べ8万の兵が徴収された。

半数が蛮族の傭兵なために途中合流になるが、ローレンから近い場所に蛮族の巣があるため、先制攻撃が開始されると通告があった。


「覇王剣なんか伝説だと思ってた。一体どんな男なんだ?密偵はどこに行った?」


「ジェラール、先に駆けよう。陽が暮れれば蛮族たちの攻撃が始まる。その前にオリビアを見つけないと」


「ちっ」


腰に父王から賜った帝王の剣を提げ、ガレリア城を出たジェラールは用意されていた葦毛の愛馬に跨り、ルーサーと共に戦線を離脱して一路ローレンへと向かう。


「ジェラールは行ったか?」


「ああ、何故か先を急いでローレンに向かった。…よし、やるか」


「混乱の最中、あいつを殺す。暗殺が成功した暁にはお前たちに領地を与えよう。…必ずジェラールを殺れ」


長兄のウェルシュは砂塵を巻き起こしながら小さくなってゆくジェラールを見遣り、肩を揺らして笑った。

うまくいけば覇王剣を持つ者を手に入れて、なおかつジェラールも始末できる。

一石二鳥だと嘲笑の声を上げて、ガレリアを出た。
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