冷たいアナタの愛し方
「なに?創世記に書かれている覇王剣の持ち主が現れただと?」


空の玉座の前にはジェラールを含め5人の王子が立っていた。

互いの一挙手一投足を見逃さぬように向かい合い、腰に剣を提げ…血が繋がった兄弟という間柄であるにも関わらず、不気味な緊張感が漂っている。


「あれは伝説だったのでは?!だが…”覇王剣を持つ者は世界を総べる”というあの伝説…間違いなければ、持ち主を懐柔することができれば……」


「…そんなことより」


ざわつく兄弟の声に割って入ったのは、静かな声。

一斉に皆の視線を集めたジェラールは、兄弟の誰よりも背が高くなり、切れ長の瞳は圧倒されて息を呑んでいる兄弟たちを物でも見るように眺めて口角を上げて笑った。


「そんなことより、陛下と母上を暗殺したのは誰だ?早めに名乗り出た方がいい。でないと惨い死に方をすることになる」


しんと静まり返った王の間。

後継者争いで口にする物すら信じられずにいる中、ジェラールは父が暗殺される直前に賜った帝王の剣に手をかけ、兄たちを身構えさせる。


「末弟の分際で調子に乗るな。俺たちも陛下と母上を暗殺した憎き者を捜しているんだ。お前は俺たちのせいにする気なのか?」


「陛下は俺を王に推していた。兄上たちはそれが気に入らなかったのでは?」


あくまで優位の姿勢を崩さないジェラールは――若干20歳ですでに威厳を備え、兄たちとは完全に器が違うことを見守る臣下たちに見せつける。

互いに目配せをはじめてたじろぐ兄たちの様子は父を殺しましたと言っているようなもので、背後に控えていたルーサーを肩越しに振り返ったジェラールが踵を返す。


「ま、待て!覇王剣の持ち主はローレンに居るそうだ。我らはそれを見過ごすことができない。今すぐ懐柔するか、もしくは抵抗された場合殺すしかない」


ローレンと聞いたジェラールの脚が止まる。

あそこには…かつて数日滞在した間に出会った女の子が今も住んでいるはずだ。


「ローレン…?あそこは中立国ですが攻めるつもりですか?」


「中立国故に我らに無断で力を備えることは許されない。ローレンは誓約を自ら破ったんだ。攻め込まれたとしても文句は言うまい」


「ジェラール…」


ルーサーの顔つきが厳しくなり、ぎり、と歯噛みしたジェラールは兄たちに背中を向けたまま押し殺した声で呟いた。


「…俺も行きます」


あの子を、助けに。
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