冷たいアナタの愛し方
天狼の背に乗り、ぴんと背筋を伸ばして蛮族の巣を散策して回るオリビアの姿を見た蛮族たちは、口々に噂を始めていた。


「なんだあの女…。まさかボスの女か?」


「可愛いじゃねえか。手ぇ出すと俺らが殺されっぞ。それになんだあの狼…魔物か?」


遠巻きにオリビアを見つめていると、必ずといっていいほど天狼…シルバーが彼らを金色の瞳で睨みつけて威嚇した。

オリビアはシルバーの長い毛を指に巻き付けて、少し力を込めるだけで右へ行かせたり左へ行かせたりシルバーを見事に動かして一通り見て回った後、シルバーから降りる。


「お腹空いたでしょ?何か食べて来ていいよ。あ、人間は駄目だからね」


「わん!」


再びガゼルの家に戻ったオリビアは、数段ある階段に腰を下ろしてどこかへ走り去って行ったシルバーを見送った。

…ルーサーはまだ戻って来ない。

もう昼になったが、蛮族の巣は外界との喧騒を微塵も感じさせず、独特で穏やかな時間が過ぎてゆく。

ルーサーとは再会できたのだからあの口が悪くて垂れ目な連れとも久しぶりに会ってみたい。


「…私だけ置いて行かないで…お父様…お母様…」


膝を抱えてうずくまっていると、目の前でぼとりと重たい音がした。

顔を上げたオリビアは、シルバーが得意満面といった感じで尻尾を振り、捕らえてきた鹿の首をくわえてオリビアに近寄った。


「わ、すごい。お前は狩り名人だね。私はいいから全部食べていいよ」


まるで一緒に食べよう、と言っているように何度も鼻をきゅんきゅん鳴らすシルバーの頭を撫でていると、家からエイダが出てきて目を丸くした。


「こりゃ大きな鹿だね。あんたと一緒に食べたがってるみたいだから少し分けてもらって一緒に食べたらどうだい?」


「うん、じゃあ…。でも私料理が苦手で…」


「あたしがやってあげるから。シルバーって言うのかい?あんたは料理ができるまで待機。いいね?」


オリビアの命令以外聞く耳持たずのシルバーは伏せをしてつんと顔を逸らした。


「シルバー、ちょっとだけ我慢しててね。一緒に食べよ」


「わんわん!」


オリビアはてきぱきと鹿を解体していくエイダの手つきをじっと見ていた。

人を殺した時の感覚が――手に沁みついて離れなかった。
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