冷たいアナタの愛し方
昼を回った頃、ルーサーとガゼルが戻って来た。

鹿肉入りのスープを食べていたオリビアは、隣に座ったルーサーの疲れた様子に顔を曇らせる。

…父たちの姿はなく、またルーサーの表情から見つけることができなかったことが窺えた。


「ルーサー…お父様たちは…」


「…ごめんね、見つけられなかった。だけど王が死んだという話はひとつも聞かなかったから生きてるんじゃないかな。僕はそう思うよ」


「じゃあ…お父様たちは生きてるかもしれないってこと?良かった…。ルーサー、ありがとう。…でも…お父様たちを殺そうとしたのは…」


「僕の兄ウェルシュの仕業だよ。さっきハルヴァニア軍が来たからガレリアに撤退したはず。僕も戻らないと…」


父たちを見つけることはできなかったけれど、すでに殺されてどこかに埋められた可能性も否定できない。

オリビアはスプーンをテーブルに置くと、金茶の瞳をぎらつかせてルーサーの膝に触れる。

…そこから何か得体の知れないパワーのようなものを感じ取り、身体の内側から鼓舞されるような――オリビアから目を離すことができなくなった。


「オリビア…?」


「私…ガレリアに行きたい。お父様たちをどうしたのか、直接ウェルシュに聞きたい」


「だけど…警備が激しいんだ。王都までは誰でも入れるけど、王宮もしくは王族の居住区内には使用人と上級官僚しか入れなくて…」


「使用人?」


――妙なことに興味を持たれてしまった、と思った。

使用人といっても話すことを許さないように命令され、各地から集められた奴隷と下級貴族で階級を持たない者が使用人として使われる。

父王が暗殺されてからはウェルシュは奴隷を物のように扱い、どれほどの数が逃げたり死んだりしたことか――


「…とにかく駄目だから。妙なことを考えないで」


「あなたからの紹介だってことで私を使用人として使ってほしいの。そうすれば…ウェルシュに近付けるでしょ?」


「近付いてどうするの?暗殺するつもり?それにシルバーは目立ちすぎるから連れて行けないよ?それでもいいの?」


鹿肉の入った皿に顔を突っ込んでいたシルバーが顔を上げた。


幼い頃から一緒に育って遊んでいたシルバー。

離れるのは身を切られるほどに苦しいけれど、父たちの安否だけは知っておかないと。


「…シルバーなら大丈夫。後でちゃんと話を言い聞かせるから」


膝に乗せられたオリビアの掌から伝わる波動――逆らえなかった。
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