冷たいアナタの愛し方
連れて来られた奴隷は、今まさにどこかから買われたか捕らえられてきたばかり、という風体だった。

毒味をしろとウェルシュに言われて身体を震わせて恐怖に怯えているのに、ウェルシュはそれすら楽しそうにして椅子にふんぞり返っている。

オリビアも一応王族として小さな頃から少しずつ毒を自ら体内に入れて慣らしてきたので大抵の毒には一応抗体はあるが…ウェルシュは違うのだろうか。

しかも毎回毒味をさせるというわけではなく、ウェルシュの気まぐれで行われることをレティから聞いたオリビアは、奴隷と人として扱わないウェルシュに怒りを覚えた。


「兄上、奴隷たちに毒味をさせるのは非人道的だとあれほど言って…」


「非人道だと?それなら奴隷制度自体を無くさないとなあ。悪いが俺は奴隷制度を無くすつもりはない。こいつらは無給でよく働いてくれるし一応感謝はしているさ」


この男には言葉が通じない、と思った。

実際何度か毒が混入されることがあり、奴隷が泡を拭いて死ぬ度にウェルシュは給仕係を皆殺しにしてきたという。

毒味をさせるのはそう頻繁に起こるというわけではないが…それでも毒味をして死ぬことがあれば、自分たちの命も危ない。

何よりウェルシュが見世物のように楽しんでいることにオリビアは怒り、一歩前に踏み出した。


「!ちょ、リヴィ…!」


「やめて」


「あ?なんだお前は」


突然会話に乱入してきたオリビアに驚いたルーサーが腰を浮かし、目だけでやめろと訴えかけてきたが、目の前が真っ赤になっているオリビアは前進してウェルシュを睨みつけた。


「私たちは奴隷だけど、その前に人よ。王族なら少しずつ毒を服用して身体を慣らしてきたはず。毒味をさせる必要はないでしょ」


「なんだお前は奴隷の分際で。口を慎めよ、俺はガレリアを継ぐ国王になる男だぞ」


「あなたが国王?冗談にも程があるわね。国王?愚王、の間違いでしょ」


「な…なんだと!?貴様…顔を見せろ!殺してやる!」


馬鹿には何を言っても無駄。

死を覚悟したわけではないが、最悪の結末に至ったことを理解したオリビアは、父たちがこの酒樽に殺されたのならば同じ場所に行けるかもしれない、と達観しつつ、フードを払いのけて素顔を晒す。


「…!な、なんだお前………う、美しいな…」


酒樽の顔が真っ赤になった。

オリビアはゴミでも見るような目でウェルシュを見つめて、唖然としているルーサーに内心謝りつつ再び口を開いた。
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