桜の国のアリス
第三章 リーン


遠い昔………。
…いえ、実際はあれから10年も経過していない。

リーンがこの世を去ってから………。










――――――15年前


「リーン!遊ぼ!」


当時11歳であったユウは、隣の家に向かって声をかけた。
ユウがいるのは自分の家の二階の窓。
そこから身を乗り出せばすぐに隣の家に届いてしまう距離。
そこにリーンはいた。


「ユウ。」


微笑む少女は、読んでいた本をパタンと閉じた。


「ちょっと待っててね。」


ユウは先に外に出た。
そしてリーンの家の前で待つ。


「おまたせ。」


玄関のドアが開くと、リーンはやって来た。
白く透き通るような肌と、真っ白でふわふわな耳。
ショートカットの銀髪に、膝丈の白いワンピースは白い肌に映えている。
優しくにっこりと微笑む少女。
それがリーンであった。










「ユウ、今日は何をする?」


「おにごっこでもしようか?」


「わかった。
じゃあじゃんけん。」


リーンがチョキでユウがグー。
ユウはリーンのもとを離れて走り出す。
ユウの後方から数を数える声が聞こえ、10までいくとリーンも走り出した。






「はあっ、はあっ。
あれ。」


ユウが夢中で走ると、近くにリーンの姿は見えなかった。
そして気が付くとユウは森の奥の方に来ていた。
この森の先にはこの国の城がある。
少し、嫌な予感がした。
森を抜けたわけではないから考えすぎかとも思ったが、ユウは引き返すことにした。


「リーン!
リーン!どこー!」


大きな声でリーンを呼ぶが、返事がない。


「リーン!!」


さらに大きな声をあげ、聴覚を集中させた。
リーンは耳がいい。
だから聞こえたらこちらへ向かって来るはずだ。
しかし足音のようなものは聞こえない。
おかしいな……。
汗が頬を伝う。
嫌な予感が大きく膨れる。


「リーン!!
どこにいるんだ!!
いたら返事して!!」


もう一度、森に耳を傾けてみる。


「……ウ………ユ………」


途切れ途切れにユウを呼ぶ声が聞こえた。


「リーン!!」


声が聞こえて少しだけ安心した。
ユウは声のした方へ歩いた。
しかし、何故リーンは自分の元へ来ないのか。
ユウに大きな不安が襲った。
ゆっくりと歩いていた足並みが徐々に速くなる。
額からは冷たい汗がタラタラと頬を、鼻を、目頭を伝う。
いつしかユウは走っていた。


「…ウ………けて……」


「リーン!!!」


がさがさと足下の草がうるさい。
しかしユウの耳にははっきりとリーンの声が聞こえた。






「ユウ!!助けて!!!」






遠くにリーンの白い耳と、青い服の男が見えた。


「リーンを離せ!!」


ユウは走ったままの勢いで、思いっきり青い服の男に体当たりした。

――――ドン!!

そんな鈍い音がして男はひっくり返る。
男に拘束されていたリーンが解放される。


「ユウ!」


リーンの声は涙声だった。
ユウはリーンの手をぎゅっと握り、自分の後ろに隠すように立たせた。
目の前にいるのはトランプ兵。
スペードの5であった。


「またお前達か。
前にも言ったはずだ。
リーンは絶対に渡さない。」


静かに睨む。
ユウはトランプ兵から目を逸らさなかった。
これは完全にユウの勝利であり、トランプ兵は悔しそうに去っていった。


「ユ…ユウ……」


トランプ兵がいなくなるのを確認すると、ユウはリーンをぎゅっと抱きしめた。
リーンは少し震えていた。






「大丈夫だよ、リーン。
俺が守るから。
またあいつらが来たって、俺が絶対リーンを守るよ。」






リーンは「うん。」と、一度頷いた。


「帰ろう、リーン。」


ユウはリーンの手を引いて、民家の方へと歩き出した。
ぎゅっと繋がれた手。
ユウはリーンを守れたことに、心から満足していた。
またトランプ兵が襲ってきたら、絶対に守ろう。
同じようにすればうまくいく、と。






しかし、思い通りにはいかなかった――――――






「リーンを放せ!!!」


ユウはトランプ兵に飛び掛かったが、トランプ兵は楽々かわしてみせた。
そして、もう1人のトランプ兵に取り押さえられてしまった。
リーンを押さえているのはハートのA。
ユウを押さえているのはスペードのA。
先程のトランプ兵とは比べ物にならない強さだった。


「いッ…!!」


ユウは腕を後ろで捩られ、身動きが取れないようにされた。


「リ、リーンをはなせ…!」


「やめて!!放して!!」


リーンを捕まえているハートのAは、泣き叫ぶリーンに耳打ちした。






「もし君が大人しくこちらへ来るなら、ユウ君はこれ以上傷付かないんじゃないのかなぁ?」






「……………え?」


リーンの動きがピタリと止まる。
そしてそれを見計らったように、スペードのAはユウを殴った。


「いやぁぁあ!!!!ユウ!!!」


ユウは口のなかを切り、ポタポタと血が垂れる。
顔をあげると、鼻血も出ていた。


「リーンを…はなせ……」


ハートのAはリーンに囁く。


「君のせいでユウ君、死んじゃうかもよ?
何か言うことあるよねぇ?」


リーンはかたかたと震える。


「わ、私……」


「聞こえない。」


「私…は……」


「もっと大きな声で!」


その声でスペードのAもユウもリーンに注目する。






「私はあなた達と一緒に行くから!
ユウを放して!!」






「行くよ。」


スペードのAはユウを捨てるように放し、ハートのAはリーンの腕を引っ張って森の中へと歩いていった。

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