キスから始まらない恋。
「は?おーじ?なにそれファンタジー?」
「えっいや……」
まさか下心丸出しの本性を見せるわけにはいかない。
「わッ私、体育館への道が分かんなくって…」
「あぁ、迷子か」
「…まぁ、はい」
「……ん」
顎で示された方向を見る。
「あ、ありがとうござ…「勘違いしてるみたいだから言っておくけどさ」
出しかけた足がぴくっと震えた。
ゆっくりと元に戻す。
「何ですか…?」
「俺、王子サマなんかじゃないよ」
薄っすらと笑みを浮かべた彼は、言いたいことは全て言ったようで、また私が来る前のように本を頭に乗せ眠りについた。
「あ、ありがとうございました……」
なんだか私は、よくわからない出会いをしてしまったらしい。
でも、彼が言っていたことに嘘がないと知ったのは、それからすぐのことだった。