猫 の 帰 る 城



真優の態度は変わらなかった。

ドタキャンしたあの日のことも、たいして気にしていないようだった。
僕は急用の理由をあれこれ考えていたのに、真優は深く追及してこなかった。
雨が降って、祭りが中止になっていたのはせめてもの救いだ。


だけど僕はそうもいかなかった。

真優の態度が変わらないことに、むしろ僕の胸が痛むのだ。

あの夜のことを知っているのは僕だけなのに、まるで真優が知っていて平然とした態度をとっているように見えるのだ。
すべてばれているのではないかと。


罪深い行為をすると、人は相手に不必要な疑心を抱く。

僕は真優の言動をいつも気に掛けるはめになった。
だから無駄にディナーに誘ってみたりした。

いわば自己満足の罪滅ぼしだ。



それでも小夜子との関係は復活させてしまった。

放っておけなかった、というのは表向きの偽善だろう。
彼女の傍にいることは、なぜだか僕を無性に安心させるのだ。

その安心感がほしくて、小夜子と会う日も増えていった。
ただ寄り添っているだけの夜も悪くないものだった。

キスも、セックスもない夜。


小夜子の傍に居続けることは、僕にとっていいことではないとわかっていた。

けれど理屈じゃないのだ。

理屈じゃなく、彼女の傍にいるべきだと思ったのだ。

理屈じゃないから、自分でも矛盾した現状を維持している。
真優に罪悪感を抱きつつも、小夜子との関係を続けている。


我ながらめちゃくちゃだった。









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