あふれるほどの愛を君に
近くて遠い
*・*



「おーいハルオー、生きてるか~?」


桃子さんの元気の良い声に我に返る。


「……一応、生きてます」


そう返した僕の声は、自分でもツッコミたくなるくらい覇気がなかった。


その日、トイレの電球を換えてほしいと頼まれた僕は、会社帰りに桃子さん宅にいた。

実さんは鹿児島へ出張中で、だからその代わりってわけだ。


「その辛気臭い顔って仕事が忙しいせいだけ?」


折り畳み式のステップ台を降りた僕の顔をのぞきこむ桃子さん。反射的に無理に作り笑顔を浮かべたら、怪訝な顔で返された。


「本来のハルオの笑顔は、このLEDみたいに明るかったはずよ。なのに今のあんたは死相が出る寸前ね」


死相って……。

さすがにその単語には反応して、そんなにひどい顔してるかなって鏡を見たくなったけど。でも自覚がないわけじゃなくて。


「あんた達揃って元気がないってことは、二人の間でなんかあったの?」


そう投げかけて桃子さんは、前に突きだしたお腹を両手で撫でながらリビングのほうへ戻っていった。

その背中を見送って壁のスイッチへ手を伸ばす。

でもすぐにはOFFにせず、そのまま電球を取り替えたばかりのライトを見上げた。

それは確かに眩しくて、なんとなく僕は顔を背けた。

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