ひとつ、屋根の下で
「そ。あれは、若い頃の親の話。大学で出会ったうちの両親だけど、父親の方が結構むずかしい病気で。その治療のために海外にいったんだけど、ちゃんと完治してるよ。
……今家に父親がいないのは、あっちの生活が性にあってるとか言って始めた事業が成功してるから。
ナオはナオで日本出ようとしないしさ。
ま、でもたまーに父親が帰ってくると目も当てられないくらいいちゃついてるから、あの人たちにはこれで丁度いいんじゃないの」
気恥ずかしさを誤魔化すように、凌はもうほとんど中身の残っていないマグカップを口に付け、傾けた。
私はといえば、そんな凌をただ呆然と見ることしかできない。
「……紛らわしいよ、もう……」
「そんなこと言われても、俺ひとことも自分の話だなんて言ってないだろ。……つか」
コトン、と音を立ててマグカップを置いた凌が、まっすぐ私を見てきた。
「なんで、俺の話だったらショックなの?」
「……え」
まっすぐな、視線に。
まっすぐな、言葉に。
息がつまった。
俯きたいのに、目を逸らしたいのに。
なにか、言葉を返さなきゃとも思うのに。
……いつものくせで。
自分の気持ちを誤魔化そうと、思うのに。