穢れた愛


絵里を宥める
言葉すら
浮かばず


頭を左右に振り
首の骨を鳴らす


「後で掛け直す」


返事を待たずに
電話を切った横瀬は
アドレスの中から
柏崎の番号を探し
電話を掛けた


コールする
呼び出し音は
短く


雑音もなく
静まり返る部屋の中
柏崎の声だけが響く
情景が伝わる


『何だよ』


篭った声の裏に
くたびれた柏崎の
生活感が漂う


「絵里が狂った
 様子 見て来い」


横瀬の頼みに
不屈な笑い声


『お前が行けよ』


強がりだけの
口八丁男


たった一度の頼みを
遂行しただけで
勝ち誇る
哀れな柏崎


「今日は 栞の命日だ
 頼んだぞ」


威嚇を織り交ぜた
言葉を叩きつけ
横瀬は電話を切った


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