穢れた愛


充電の切れた
携帯電話を
握り締めたまま


窓硝子に凭れ
珈琲を口に含むと
くたびれた足音が
駆け寄ってくる


「山越常務
 奥さんから電話です」


山越は開いたままの
携帯電話を閉じ


「悪いね
 今 行くよ」


簡単な事情を
伝えてある部下は
山越の横に並び
同情染みた苦笑を浮かべ


「後は 自分達でやりますから
 自宅へ帰られたら
 どうですか」


山越は部下の肩を叩き
曖昧な笑みを繕い


「帰った所で
 状況が変わる訳でも
 ないだろ」


内線に切り替えた電話を
山越のディスク電話へ
回線が転送され


点滅するボタンを押すと
耳を劈く声が
受話器から
響き渡った


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